ゼラチナーゼ活性の測定

MMP 研究における重要な技術、酵素活性の測定について解説します。

MMP-2、MMP-9 研究における問題点

MMP-2 や MMP-9 などの MMP(Matrix metalloproteinase、マトリックス・メタロプロテアーゼ)タンパク質を研究するに当たっては、それらの局在や量をウエスタン・ブロッティング、ELISA、免疫組織染色などの方法で調べるだけでは不十分で、その酵素活性を検出・測定し、解析することが不可欠です1。しかしながらこれらタンパク質は生体内の制御機構が複雑で、解析は簡単ではありません。

例えばこれら酵素は不活性型の前駆体として発現し、プロペプチド・ドメインが加水分解よる切断を受けることによって活性化されます。また活性化された酵素は組織内在性メタロプロテアーゼ・インヒビター(Tissue inhibitor of metalloprotease; TIMP)による制御を受けます。そのため MMP の活性測定は、さまざまな方法が考案され、開発されてきました。あなたの研究に最も適した方法はどれでしょうか?

各方法の概要

方法特性

ゲル・ザイモグラフィー

Gel zymography ​

少数の生体サンプル、臨床サンプル中の活性を、in vitro で大まかに把握する際に2

基質アッセイ

Substrate assays

ハイスループットで定量的なデータを得る際に。

in situ ザイモグラフィー

in situ zymography

組織中における MMP-9 の局在を調べる際に。

in vivo ザイモグラフィー

in vivo zymography

組織中での局在を調べる際に、また in vivo での MMP-9 活性パターンを調べる際に。










ゲル・ザイモグラフィー


適用できるサンプル: 培養上精、組織ライゼート

原理: サンプルを、ゼラチンを含むゲルで非還元 SDS 電気泳動して分離します。泳動後ゲルを酵素反応に必須の補助因子を含む溶液に浸してゲル内で酵素反応を行なわせると、ゲル内で MMP が存在する部分のゼラチンのみが消化されるため、クマシーにより全体が青く染まっているゲルにその部分が透明のバンドとして現れます。

長所: MMP-9 や MMP-2 など、ゼラチナーゼ活性を有する酵素の活性を、高感度で簡便に、かつ低コストで検出できる方法です3。分子量が異なる前駆体と活性型の区別もできます4。二次元電気泳動を用いればさらに明確に分別することも可能です。

限界その他: サンプル中の MMP が生体内で TIMP によって不活化されていても、電気泳動によって電気泳動をベースにしているので、定量的な解析を行なうのには適していません2。多数のサンプルを一度に処理するハイスループット解析にも適していません。

in vivo で TIMP が結合し抑制されている場合でも、ゲル・ザイモグラフィーでは TIMP と MMPは電気泳動により分離され、MMP の活性が認められることになります。つまりこの方法では、in vivo における活性が正確に反映されているわけではなく、最大活性のポテンシャルが反映されていることになります。

使用する場面: 少数の生体サンプル、臨床サンプル中の活性を、in vitro で大まかに把握する際に2

関連する情報: ゼラチン・ザイモグラフィー・プロトコール

基質アッセイ


​適用できるサンプル種: 培養上精、組織ライゼート

原理: MMP-9 の基質タンパク質の切断部位を含む合成ペプチドを使用します。そのペプチドは一方の末端に蛍光色素、もう一方の末端にクエンチャー(消光分子)が、それぞれ標識されている人工蛍光基質です。その基質は、未反応の状態では蛍光が抑えられていますが、MMP-9 によって切断されると蛍光色素とクエンチャーが分離し、蛍光を発するようになるので、その蛍光を検出・定量します。このような基質の代わりにビオチン化ゼラチンやスクシニル化ゼラチンを用いる方法もあります5,6

長所: 高感度であり定量性のあるデータを得ることができます。また操作は簡便で、ハイスループットに向いています。

限界その他: この方法に限りませんが、組織ライゼートをサンプルとする場合には、ホモジナイズによって別の場所にあった酵素(MMP)と阻害分子(TIMP)が混合され、偽りの結合と阻害が起きてしまう可能性があり、in vivo の状態が正しく反映されないことがあります8。また人工的に作製されたペプチド基質と酵素の反応と、内在性のタンパク質基質と酵素の反応に違いがある可能性があり、これも in vivo の状態が正しく反映されない要因になり得ます。なお、この基質の問題を解決するために近年、タンパク質基質に構造を似せたトリプルへリックス型の基質が開発されています9

MMP-9 と MMP-2 の基質特異性(認識ペプチド配列)はほぼ同じであり、それぞれの酵素の活性を区別するのは困難です。このような区別を行なうために、ELISA と組み合わせる方法も考案されています7。酵素反応を行なわせる前に、MMP-9 抗体や MMP-2抗体で、それぞれを固相化あるいは分離する手順を加えます10

使用する場面: ハイスループットで定量的なデータを得る際に。

in situ ザイモグラフィー


適用できるサンプル種: 凍結組織切片、エタノールまたは亜鉛固定パラフィン組織切片1

原理: 組織切片に蛍光ペプチド基質を添加して組織切片全体を光らせます。組織切片中に MMP-9 が存在するとその部分の蛍光ペプチド基質が切断され、黒い穴として観察されます。

上記基質アッセイ同様、蛍光色素とクエンチャー(消光分子)が標識された人工蛍光基質を用いる方法もあります。この場合酵素が存在し活性がある部位のみに、蛍光が観察されます。

長所: 内在性酵素の局在情報を得ることができます。また組織ライゼートをサンプルとした場合と異なり、不活性型の前駆体や MMP-TIMP 複合体は維持されているので、得られた結果は正味の酵素活性を反映したものとなります。

限界その他: 定量的なデータを得ることはできず、比較的低スループットです。また、人工的に作製されたペプチド基質と酵素の反応と、内在性のタンパク質基質と酵素の反応に違いによる問題は、基質アッセイの場合と同様です。

MMP-9 と MMP-2 の基質特異性(認識ペプチド配列)はほぼ同じであるため、酵素活性として報告されているデータは、両酵素を合わせた活性である場合がほとんどです。それぞれの酵素の活性を区別するためには、それぞれに対する特異的抗体を用いた免疫組織染色や、それぞれに対する特異的阻害剤を組み合わせるなどの工夫が必要です。

使用する場面: 組織中における MMP-9 の局在を調べる際に。

関連するアブカム製品: MMP-9 ウサギ・モノクローナル 抗体MMP-9 阻害剤

in vivo ザイモグラフィー


適用できるサンプル種: 生きている組織、生体

原理: 蛍光色素とクエンチャー(消光分子)を二重標識したタンパク質基質(タイプ IV コラーゲンなど)を組織に注入します。組織中 MMP が局在す場所の基質が分解されると蛍光が観察されるようになります。

長所: MMP-9 活性について、リアルタイムで 3D 情報が得られます。

限界その他:定量的なデータを得ることはできません。

使用する場面: 組織中での局在を調べる際に、また in vivo での MMP-9 活性パターンを調べる際に。

参考文献

1. Hadler-Olsen E, Kanapathippillai P, Berg E, Svineng G, Winberg J-O, Uhlin-Hansen L. Gelatin in situ zymography on fixed, paraffin-embedded tissue: zinc and thanol fixation preserve enzyme activity. J Histochem Cytochem 58 29–39 (2010). 

2. Toth M and Fridman R. Assessment of gelatinases (MMP-2 and MMP-9) by gelatin zymography. Methods Mol Med 57, 10 (2001).

3. Leber TM, Balkwill FR. Zymography: a single-step staining method for quantitation of proteolytic activity on substrate gels. Anal Biochem 249, 24–28 (1997).

4. Rossano R, Larocca M, Riviello L, Coniglio MG, Vandooren J, Liuzzi GM, Opdenakker G, Riccio P. Heterogeneity of serum gelatinases MMP-2 and MMP-9 isoforms and charge variants. J Cell Mol Med 18, 242–252.

5. Ratikov B, Deryugina E, Leng J, Marchenko G, Dembrow D, Strongin A. Determination of matrix metalloproteinase activity using biotinylated gelatin. Anal Biochem 286, 149–155 (2000).

6. Baragi VM, Shaw BJ, Renkiewicz RR, Kuipers PJ, Welgus HG, Mathrubutham M et al. A versatile assay for gelatinases using succinylated gelatin. Matrix Biol 19, 267–273 (2000).

7. Grierson C, Miller D, LaPan P, Brady J. Utility of combining MMP-9 enzyme-linked immunosorbent assay and MMP-9 activity assay data to monitor plasma enzyme specific activity. Anal Biochem 404, 232–4 (2010).

8. Vandooren J, Geurts N, Mertens E, Van den Steen PE, Opdenakker G. Zymography methods for visualizing hydrolytic enzymes. Nat Methods 10, 211–20 (2013).

9. Lauer-Fields J, Sritharan T, Stack, MS, Nagase H, Fields GB. Selective hydrolysis of triple-helical substrates by matrix metalloproteinase-2 and -9. J Biol Chem 278, 18140–18145 (2003).

10. Hawkins KE, DeMars KM, Yang C, Rosenberg GA, Candelario-Jalil E. Fluorometric immunocapture assay for the specific measurement of matrix metalloproteinase-9 activity in biological samples: application to brain and plasma from rats with ischemic stroke. Mol Brain 6, 14 (2013).


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