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Wnt タンパクはシステインを多く含む糖タンパク質のファミリーで、発生やがん化に大きく関わっています。Wnt シグナル伝達を解説したアブカムのポスターでは、3 つのWnt シグナル伝達経路を主に取り上げています。3 つの経路とは、一般的なβ-カテニン経路(Canonical cascade)、β-カテニンに依存しない平面内細胞極性経路(PCP経路)、Wnt/ Ca2+経路を指します。
ヒト WNT 遺伝子には 19 種類あり、そのうちのいくつかは選択的スプライシングを受けたアイソフォームをコードします 1,2。Wnt タンパク質は主に 7 回膜貫通型受容体タンパク質の Frizzled 受容体に結合し、シグナル伝達を開始します。ヒトでは Frizzled 受容体が 10 種類同定されています。ホモオリゴマーやヘテロオリゴマーを形成する、各種 Frizzled 受容体の細胞特異的な発現や、Frizzled 受容体が異なる共受容体と結合することでシグナルの特異性が生まれます 3。
β-カテニン の細胞内における量は、Wnt シグナルがオフの状態では低いレベルで維持されています4-6. この状態で β-カテニン は、Adenomatous Polyposis Coli(APC)などで構成される分解複合体に取り込まれ、セリン/スレオニン・キナーゼである Casein kinase 1(CK1)や Glycogen synthase 3b(GSK3β)によりリン酸化され、その後 β-Transducin repeat containing protein(bTrCP)によりユビキチン化され、プロテオソームにより分解されます。一方、Wnt シグナルが活性化された状況では Dishevelled(Dsh) が、GSK3β を分解複合体から離脱させる GBP/Frat-1 を呼び寄せ、β-カテニン を保護するように働きます。このとき Frodo と β-Arrestin は、Dsh と共役的に働きます。一方、アフリカツメガエルで同定された Dapper は、Dsh のアンタゴニストとして働きます。また低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質ファミリーである LRP5/LRP6 は、β-カテニン を介する Wnt シグナル伝達標準経路の共役受容体として働きます。
Wnt 経路を解説したこちらのインタラクティブポスターでは、既知の Wnt シグナル経路である、β-カテニン(標準)経路、平面内細胞極性経路、Wnt/ Ca2+経路の 3 経路すべてを取り上げています。これらの経路はすべて、Wnt リガンドが Frizzled ファミリー受容体に結合することで活性化されます。しかし、それぞれシグナルは独自のカスケードにより変換され、異なるタンパク質群が下流で機能します。
Wnt シグナルが活性化されると β-カテニン は安定化し、核内へ移行します。核内では T Cell Factor(TCF)や Lymphoid Enhancer D1、PPARd、Twin などのターゲット遺伝子の転写を活性化します。
一方 Wnt シグナルがオフの状態では、TCF/LEF は Groucho などの転写制御因子と結合し、不活化されています。Groucho の抑制効果は、遺伝子を転写制御するヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deactylases; HDAC)により媒介されます。
ICAT やデュプリン(duplin)など、β-カテニンシグナル伝達を負に制御する因子は、β-カテニンに直接結合し、TCF/LEFとの相互作用を阻害します 7。さらに、β-カテニンは細胞接着においても重要な役割を担っており、タイプⅠカドヘリンの細胞内ドメインに結合し、α-カテニンを通してカドヘリンをアクチン細胞骨格に連結させます。
Non-canonical cascade の一つである PCP 経路のシグナル伝達では、アクチン細胞骨格や非対称的な細胞骨格形成を制御して、細胞の極性を調節しています。Frizzled 受容体に Wnt が結合すると、Dsh が小分子 GTPase である Rho や Rac を活性化します。Rho を介するシグナル伝達では、Daam-1 が Dsh および Rho と複合体を形成し、Rho キナーゼ ROCK を活性化します。一方 Racの活性化はDaam-1とは独立しており、Jun キナーゼ(JNK)を活性化します 5,8。
もう一つの Non-canonical cascadeである Wnt/Ca2+ 経路 では、Wnt がFrizzled 受容体へ結合すると、細胞質内にカルシウムが放出されます。これには Frizzled の共受容体である Knypek や Ror2 が関与します。この経路に関連する他の細胞内セカンドメッセンジャーには、ヘテロ三量体 G タンパク質、Phospholipase C(PLC)、Protein Kinase C(PKC)などがあります。Wnt/Ca2+経路で活性化される遺伝子は正確には分かっていませんが、NFAT が関与していると考えられています。NFAT は、カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインホスファターゼであるカルシニューリンにより制御されている転写因子です。Wnt/Ca2+経路は、細胞接着や、原腸胚形成時の細胞動態に重要とされています 3,8。
Wnt シグナリングのアンタゴニストは、secreted Frizzled Related Protein(sFRP)クラスと Dickkopf(Dkk)クラスの二つに分類されます2。sFRP クラスには、sFRP ファミリーである sFRP1-5、Wnt Inhibitory Factor-1(WIF-1)、Cerberus が含まれます。これらのアンタゴニストは Wnt に直接結合し、Wnt の受容体への結合を抑制します。
一方 Dkk クラスに含まれる Dkk1-4 は、LRP5/LRP6 の細胞外ドメインに結合し、Wnt シグナルを抑制します。Kremen は LRP5/LRP6 に結合している Dkk と結合し、Dkk-LRP 複合体をエンドサイトーシスにより細胞内部に取り込むことで、細胞表面上における LRP の露出を消失させます。その結果、Wnt は受容体と結合できず、シグナル伝達が抑制されます 9,10。従って理論的には、sFRP クラスのアンタゴニストは Wnt シグナル伝達のうち、β-カテニン を介する標準経路(canonical)と Non-canonical 経路の両者を阻害し、Dkk クラスのアンタゴニストは標準経路(canonical)のみを選択的に阻害します。
参考文献
1. Miller JR (2001). The Wnts. Genome Biol, 3(1).
4. Dale TC (1998). Signal transduction by the Wnt family of ligands. Biochem J, 329(2): 209–23.
5. Huelsken J & Behrens J (2002). The Wnt signaling pathway. J Cell Sci, 115(21): 3977–8.
6. Nusse R (2005). Wnt signaling in disease and in development. Cell Res, 15(1): 28–32.