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ヒトではこれまで 19 種類の WNT 遺伝子が同定されています。そのうちの一部の遺伝子は選択的スプライシングを受け、遺伝子産物である Wnt タンパク質は、複数のアイソフォームを持ちます(Miller 2001; Kawano and Kypta 2003)。Wnt タンパク質は主に 7 回膜貫通型受容体タンパク質である Frizzled 受容体に結合し、細胞内にシグナルを伝達します。Frizzled 受容体は 10 種類ほどのタンパク質・ファミリーから成りますが、それらタンパク質の発現は細胞種によって異なり、細胞種とシグナル伝達の特異性に寄与しています(Kohn and Moon 2005)。
β-Catenin の細胞内における量は、Wnt シグナルがオフの状態では低いレベルで維持されています(Dale 1998; Huelsken and Behrens 2002; Nusse 2005; The Wnt homepage)。この状態で β-Catenin は、Adenomatous Polyposis Coli(APC)などで構成される分解複合体に取り込まれ、セリン/スレオニン・キナーゼである Casein kinase 1(CK1)や Glycogen synthase 3b(GSK3β)によりリン酸化され、その後 β-Transducin repeat containing protein(bTrCP)によりユビキチン化され、プロテオソームにより分解されます。
一方、Wnt シグナルが活性化された状況では Dishevelled が、GSK3β を分解複合体から離脱させる GBP/Frat-1 を呼び寄せ、β-Catenin を保護するように働きます。このとき Frodo と β-Arrestin は、Dishevelled と共役的に働きます。一方、アフリカツメガエルで同定された Dapper は、Dishevelled のアンタゴニストとして働きます。また低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質ファミリーである LRP5/LRP6 は、β-Catenin を介する Wnt シグナル伝達標準経路の共役受容体として働きます。
Wnt シグナルが活性化されると β-Catenin は安定化し、核内へ移行します。核内では T Cell Factor(TCF)や Lymphoid Enhancer D1、PPARd、Twin などのターゲット遺伝子の転写を活性化します。一方 Wnt シグナルがオフの状態では、TCF/LEF は Groucho などの転写制御因子と結合し、不活性されています。Groucho の転写制御活性は、遺伝子を転写制御するヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deactylases; HDAC)により媒介されます。
ICAT や Duplin は β-catenin と結合し、β-catenin と TCF/LEF との相互作用を阻害することで、標準経路を負に制御します(Kikuchi et al., 2006)。さらに β-catenin は細胞接着にも関与しており、E–Cadherin や N–Cadherin などのタイプ I クラシックカドヘリンの細胞内ドメインに結合し、さらに α-catenin と複合体を形成します。この Cadherin/Catenin 複合体は、他の分子を介して Actin 細胞骨格と相互作用すると考えられています。
Non-canonical cascade の一つである PCP 経路のシグナル伝達では、Actin 細胞骨格や非対称的な細胞骨格形成を制御して、細胞の極性を調節しています。Frizzled 受容体に Wnt が結合すると、Dishevelled が小分子 GTPase である Rho や Rac を活性化します。Rho を介するシグナル伝達では、Daam-1 が Dishevelled および Rho と複合体を形成し、Rho キナーゼ ROCK を活性化します。一方 Rac を介するシグナル伝達では、Daam-1 とは相互作用せず、Jun キナーゼ(JNK)を活性化します(Huelsken and Behrens 2002; Habas and Dawid 2005)。
もう一つの Non-canonical cascadeである Wnt/Calcium 経路 では、Wnt がFrizzled 受容体へ結合すると、細胞質内にカルシウムが放出されます。これには Frizzled の共役受容体である Knypek や Ror2 が関与します。またこの経路の細胞内セカンドメッセンジャーとして、ヘテロ三量体 G タンパク質、Phospholipase C(PLC)、Protein Kinase C(PKC)などが知られています。Wnt/Calcium 経路で活性化される遺伝子は現段階では解明されていませんが、転写因子 NFAT が関与していると考えられています。NFAT は、カルシウム/カルモジュリン依存性ホスファターゼである Calcineurin により制御されています。Wnt/Calcium 経路は、細胞間接着や原腸胚形成時の細胞動態に重要であるとの報告があります(Habas and Dawid 2005; Kohn and Moon 2005)。
Wnt シグナリングのアンタゴニストは、secreted Frizzled Related Protein(sFRP)クラスと Dickkopf(Dkk)クラスの二つに分類されます(Kawano and Kypta 2003)。sFRP クラスには、sFRP ファミリーである sFRP1-5、Wnt Inhibitory Factor-1(WIF-1)、Cerberus が含まれます。これらのアンタゴニストは Wnt に直接結合し、Wnt の受容体への結合を抑制します。一方 Dkk クラスに含まれる Dkk1-4 は、LRP5/LRP6 の細胞外ドメインに結合し、Wnt シグナルを抑制します。Kremen は LRP5/LRP6 に結合している Dkk と結合し、Dkk-LRP 複合体をエンドサイトーシスにより細胞内部に取り込むことで、細胞表面上における LRP の露出を消失させます。その結果、Wnt は受容体と結合できず、シグナル伝達が抑制されます(Mao et al., 2002; Rothbächer and Lemaire 2002)。従って理論的には、sFRP クラスのアンタゴニストは Wnt シグナル伝達のうち、β-catenin を介する標準経路と Non-canonical 経路の両者を阻害し、Dkk クラスのアンタゴニストは標準経路のみを選択的に阻害します。