T 細胞イムノフェノタイピング


T 細胞は細胞性免疫において中心的な役割を果たすため、その研究はがんをはじめとした多くの免疫関連疾患の機序を解明するのに役立ちます。


T 細胞(T cell)は、免疫細胞であるリンパ球(Lymphocyte)の一種で、ウイルスなどの病原体に感染した細胞やがん細胞を認識し除去する、細胞性免疫(Cell-mediated immunity)において中心的な役割を果たします。T 細胞は骨髄の造血幹細胞(Hematopoietic stem cell)に由来し、胸腺(Thymus)に運ばれ、そこで成熟します。そしてその成熟の過程で、自己を構成する成分を認識するクローンは排除され、非自己の成分を認識するクローンのみが生き残ります。


なぜ T 細胞の研究が重要なのでしょうか?

T 細胞の役割は非常に大きいため、その機能の欠陥・障害は、生体に深刻なダメージを与えます。例えば T 細胞の機能の完全な喪失は、致死的になり得ます。それゆえ、T 細胞の機能とメカニズム-どのように免疫応答を認識し、免疫を活性化(あるいは抑制)しているか-を研究することは、非常に重要です。

T 細胞は、その数の減少や活性の低下といった部分的障害であっても、重篤な結果をもたらすことがあります。例えば、胸腺の発達が十分でない遺伝性疾患 DiGeorge 症候群の患者は、感染に対して対応ができず、再発性の感染の危険に常にさらされています。

原因が T 細胞にある免疫不全の極端な例としては、重症複合免疫不全症(Severe Combined Immunodeficiency; SCID)が挙げられます。これは T 細胞などの白血球の分化および増殖に影響を及ぼす遺伝子の突然変異から生じます。

T 細胞が関与する疾患としては、自己免疫疾患(Autoimmune disease)もよく知られています。これは T 細胞が自己と非自己をうまく識別できず、T 細胞が自身の細胞に対して攻撃することによって起こります。自己免疫疾患には、慢性関節リウマチ(Rheumatoid arthritis)や全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus; SLE)などの全身性疾患と、クローン病(Crohn’s disease)やグルテン不耐症としても知られるセリアック病(Coeliac disease)などの器官特異的疾患があります。

血液に関連する重篤な疾患にリンパ球性白血病(Lymphocyte leukemia)があります。リンパ球性白血病にはさまざまなタイプがありますが、そのうちのいくつかは未熟または成熟 T 細胞に由来する T 細胞腫です。これらの白血病は赤血球および血小板の産生を抑制し、貧血や血液凝固不全を引き起こし、感染防御に悪影響を与えます。T 細胞腫は、HTLV-1(Human T-cell lymphotropic virus 1)の感染が原因となる T 細胞非ホジキンリンパ腫(T-cell non-Hodgkin lymphoma)のように、ウイルス誘発性のものもあります。

がん細胞は自己にとっていわば異物であるため、本来 T 細胞を中心とした細胞性免疫によって攻撃され、排除されるべきものです。しかしながらがん細胞は、免疫細胞による認識や応答を逃れるための複数のメカニズムを備え、その攻撃を回避しています。近年、このようながん細胞の回避メカニズムを打ち破り、免疫系の力でがんと戦う治療法や薬剤が開発されています。がん免疫療法(Cancer immunotherapy)と呼ばれるこのような方法には、いくつかの種類があります。一つのアプローチは CAR T 細胞療法と呼ばれるもので、患者から採取した T 細胞を遺伝子改変した後に体内に戻すという方法です。遺伝子改変された T 細胞は、がん細胞上の抗原を特異的に認識するキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor; CAR)を発現しています。この CAR T 細胞はがん細胞上の抗原を認識し、その細胞を攻撃するようになります。この療法は臨床試験において有望な結果を示しています。もう一つのアプローチはがん細胞が免疫反応から逃れるために利用する、免疫チェックポイント(Immune checkpoint)に着目して開発された薬剤で、がん細胞が利用する PD-1 と呼ばれる分子に特異的に反応するモノクローナル抗体医薬が、既に実用化(市販)されています。


T 細胞のサブタイプ

T 細胞にはサブタイプがいくつかあり、その機能は大きく異なります。ここではその中で機能が比較的よく知られている 3 種類のサブタイプ、キラー T 細胞(Killer T cell または Cytotoxic T cell; CTL)、ヘルパー T 細胞(Helper T cell または Th)、制御性 T 細胞(Regulatory T cell または Treg)について説明します。

キラー T 細胞は宿主にとって異物となる細胞上の、特異的な抗原(病原体の断片やがん特異抗原など)を認識し、その細胞を攻撃します。その攻撃は、パーフォリン(Perforin)やグランザイム(Granzyme)などの細胞傷害物質の放出によって行われます。

ヘルパー T 細胞は病原体との戦いにおいて、免疫系の他の細胞を活性化させます。その活性化は、病原体由来の特異的な抗原を認識することによって自身の分泌が活性化する可用性タンパク質、サイトカイン(Cytokine)を介して行われます。ヘルパー T 細胞は、サイトカインの分泌パターンなどからさらに、Th1 細胞や Th2 細胞などのサブセットに分類されます。Th1 細胞はマクロファージ(Macrophage)や樹状細胞(Dendritic cell)などの免疫細胞を活性化させます。Th2 細胞は B 細胞などと協調し、抗体産生において重要な役割を果たします。また Th2 細胞は、ある種の感染症に対する生涯免疫の獲得や、即時型アレルギーの発症にも関与しています。

制御性 T 細胞は文字通り免疫系を制御しています。過剰な免疫反応が起こらないようにするとともに、起こった免疫反応の進行を調節し、それが確実にシャットダウンされるようにします。このような機構は自己免疫疾患の抑制において重要です。その一方制御性 T 細胞は、免疫細胞による認識や応答を逃れるために、がん細胞に利用されていることも明らかになっています。


T 細胞の分別(フェノタイピング)

T 細胞のサブタイプやその他免疫細胞の分別(タイピング)は、形態学的には難しい場合が多く、通常、サイトカインの分泌パターンや各種 CD などの表面抗原の発現パターンを解析して行われます。その場合サイトカインや表面抗原に対する抗体が利用され、その抗体の免疫反応(Immune reaction)でおこなわれるため、イムノフェノタイピング(Immunophenotyping)と呼ばれます。その際の強力なツールとなるのがフローサイトメトリーです。細胞一つ一つについて同時に、複数の分泌サイトカインや発現表面抗原を検出することができます。

T 細胞のすべてのサブタイプは、その表面に必ず CD3 抗原を発現しています。しかしながらそれ以外の抗原については、サブタイプによって発現パターンは異なります。例えば CD3 の他、キラー T 細胞は CD8、ヘルパー T 細胞は CD4、制御性 T 細胞は CD4、CD25、FoxP3、CD127 などを、それぞれ発現しています。このようにある細胞集団に特異的に発現し、イムノフェノタイピングに利用できる分子のことを細胞マーカーと呼び、免疫分野の研究において広く用いられています。以下に各 T 細胞サブタイプの細胞マーカーをまとめました。


T 細胞サブタイプ

細胞マーカー

局在

分子種

T cell (all)

CD3

Cell membrane

Cell membrane receptor

Killer T cell

CD8

Cell membrane

Cell membrane receptor

Killer T cell

IFNγTNF

Secreted

Cytokines

Killer T cell

EOMES

Nuclear

Transcription factor

Helper T cell

CD4

Cell membrane

Cell membrane receptor

Helper Th1

CXCR3

Cell membrane

Chemokine receptor

Helper Th1

IFNγIL-2IL-12, IL-18

Secreted

Cytokines

Helper Th1

STAT4STAT1

Nuclear

Transcription factors

Helper Th2

CCR4

Cell membrane

Chemokine receptor

Helper Th2

IL-2IL-4

Secreted

Cytokines

Treg cell

CD4CD25
CD127CD152

Cell membrane

Cell membrane receptors

Treg cell

TGFβIL-10IL-12

Secreted

Cytokines

Treg cell

FoxP3STAT5

Nuclear

Transcription factors


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