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SARS-CoV-2パンデミックは、世界中の人々に影響を及ぼし続けています。現在COVID-19に対する治療法がないため、ワクチンや医薬品の開発は優先課題となっています。多くの研究者は、SARS-CoV-2に対する中和抗体の開発を目指しており、この抗体はウイルスの標的細胞受容体への結合を防ぐものです。この中和抗体によるウイルスの阻害は、ウイルス粒子の凝集と、その後の抗体媒介性免疫調節効果または補体活性化によるウイルスの分解を誘導します。
最近Science誌に発表された2本の論文において、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)の結晶構造についての報告がありました 1,2。
最初の論文Wrapp et al.ではSARS-CoV-2 RBDのACE2への結合親和性は、以前に同定されていたコロナウイルスSARS-CoVの結合親和性よりも10〜20倍高いことが明らかになりました。さらに、SARS-CoV RBDに対する中和抗体(クローンS230、m396、80R)を新しいSARS-CoV-2 RBDに対してテストしたところ、その効果は認められませんでした。
2本目のScience論文Yuan et al. はSARS-CoV-2 RBDの結晶構造を決定しました2。この研究では、バイオレイヤー干渉法(BLI)とELISAの組み合わせを用いて、上記の研究で使用された抗体とは異なるのSARS-CoV中和抗体であるCR3022クローンを検証しています。CR3022クローンは、SARS-CoV RBDに比べて親和性が低いものの、SARS-CoV-2 RBDに結合することが示された (SARS-CoV-2およびSARS-CoV RBDはそれぞれKD115±3 nMおよび<0.1 nM)2。また、別の研究ではSARS-CoV-2スパイクタンパク質のRBDドメインが宿主受容体ACE2よりもCR3022クローンに対して高い親和性を示すことが報告されています(KD=6.3 nM のCR3022に対しACE2のKD=15.2 nM)3。この研究では、他のSARS-CoV中和抗体(m396およびCR3014)についても検証されており、これらの抗体については、SARS-CoV-2のRBDドメインに対し限定的な親和性を示すにとどまりました。
SARS-CoV-2スパイクタンパク質の結晶構造およびBLI研究の両面から、CR3022 SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体のエピトープがRBD-ACE2結合部位と重複しないことが示唆されています1-3。
ホモ三量体SARS-CoV-2スパイクタンパク質のRBDは、ヒンジのように、構造が「アップ」と「ダウン」の切り替わりがおこります。ACE2はRBDが「アップ」の状態にある場合のみRBDと相互作用できます。同様に、CR3022抗体は、3量体サブユニットのうち少なくとも2つのRBDがこの「アップ」状態にあり、かつ、わずかに回転しエピトープが露出している場合にのみ、SARS-CoV-2 RBDに結合できます2。CR3022抗体はSARS-CoVを中和する能力があるが、本研究で試験した最高用量(400μg/mL)でもin vitroにおいてはSARS-CoV-2を中和しませんでした。この結果から、SARS-CoV-2スパイクタンパク質におけるこの構造変化が生理学的に重要である可能性が示唆されました。
最近のSARS-CoV-2スパイクタンパク質のRBDの研究から、このドメインは免疫優性であり、既知のヒトまたは動物コロナウイルスの中でもユニークであることが確認されています 4。したがって、このドメインに対する抗体は、SARS-CoV-2 に非常に特異的である可能性が高く、個人がウイルスにさらされているかどうかを明らかにする、新しいCOVID-19 抗体検査の基盤となる可能性があります。
抗体による治療は、すでにウイルスに感染している患者の治療や病気の進行を防ぐために、または、ウイルスにさらされる医療従事者やソーシャルケアワーカーなどの感染を防ぐために投与される可能性があります。Wrappらの研究では、CR3022抗体はin vitroでSARS-CoV-2ウイルスを中和しなかったと報告されていますが1、必ずしもin vivoでCR3022がSARS-CoV-2からヒトを守ってくれる可能性を否定できません。以前の研究では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質と同様に「アップ」および「ダウン」の構造変化を示すインフルエンザAウイルスのHAタンパク質でも、類似する結果が報告されていました 5-7。三量体の表面にあるインフルエンザAウイルスのHAを標的とする抗体は、in vitroでは中和効果を示しませんが、in vivoではインフルエンザAウイルスの攻撃からヒトを守ることが可能です8。同様に、in vitroでは中和しないがin vivoで保護効果がある抗体は、単純ヘルペスウイルス 9、サイトメガロウイルス 10、アルファウイルス11、デングウイルス12でも観察されています。COVID-19におけるこの抗体の可能性を完全に理解するためには、動物モデルにおけるCR3022 SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体の中和能のさらなる検証が必要です。
SARS-CoV-2 RBD上のCR3022抗体とは異なるエピトープを認識し、ACE2結合部位と重複する部位を標的とする抗体CR3014を、CR3022抗体と組み合わせて作用させることで治療効果を生み出す可能性も報告されています3, 13。この先行研究ではこれらの抗体を組み合わせることで、SARS-CoV による免疫逃避を効果的に制御し、変異ウイルス株からの攻撃に対する宿主の抵抗力を高められることが示されています13。従ってこのような効果がSARS-CoV-2においても作用する可能性があります。
SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対するCR3022抗体は、そのユニークな結合メカニズム、そしてACE2-RBDとは標的部位が異なるにもかかわらず、依然として、in vivoでSARS-CoV-2を効果的に中和する可能性があり、COVID-19治療のための中和抗体の組み合わせの一部として使用される可能性があります。
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