All tags Primary antibodies 多能性幹細胞のタイプとマーカー分子

多能性幹細胞のタイプとマーカー分子

多能性幹細胞はヒトの身体にあるどのような細胞にも分化する可能性を有する細胞です。その研究は、さまざまな疾患の解明と治療法の開発につながると期待されています。

注目ターゲット: NanogSOX2Oct-4Klf4Lin28TRA-1-60SSEA-1SSEA-4c-Myc

幹細胞 Stem cells はさまざまな可能性を秘め、非常に興味深い研究対象です。幹細胞のひとつ、初期胚に存在する胚性幹細胞(ES 細胞) Embryonic stem cells は、ヒトの身体にあるどのような細胞、組織にも分化できる、いわゆる多能性 Pluripotency を有します。また成体の骨髄、皮膚、腸などの組織にも幹細胞は存在します。その幹細胞、成体幹細胞 Adult stem cells は、組織の同じ系列に属するいくつかの種類の細胞に分化できる多分化能 Multipotency を有します。

幹細胞の発見と研究は発生学の研究を進展させ、その応用は疾患の治療にさまざまな可能性をもたらしました。その研究は 1981 年のマウス ES 細胞の単離および培養の成功に始まります。それ以来、幹細胞の自己複製能を促進し未分化である状態を保つ方法や、幹細胞から特定の組織や細胞タイプへと分化させる方法など飛躍的に開発が進み、新たな治療法、再生医療へ道が開かれていきました。

幹細胞のタイプ

全ての臓器へ分化する可能性を秘めた完全な多能性を有するのは、受精したばかりの極初期の胚性細胞のみであり、着床前胚、着床後胚のそれぞれから、多能性を有する幹細胞が単離培養されています。

マウスの胚からは 2 種類の多能性幹細胞、ES 細胞とエピブラスト幹細胞 EpiSC が樹立、同定されています。ES 細胞は受精後 5 日目前後の胚盤胞内部の内部細胞塊中の胚細胞より樹立され、より未分化な「ナイーブ型」の多能性幹細胞に分類されます。内部細胞塊中の細胞は、着床後に内胚葉、中胚葉、外肺葉の 3 種類の初期胚性胚葉に分化し、最終的には体中の組織や器官へと分化します。分化は着床後すぐに始まるので、受精後の胚から多能性を有する ES 細胞を採取できる時期はごく限られています。エピブラスト幹細胞は、着床後の初期胚から樹立され、より分化の進んだ「プライム型」多能性幹細胞に分類されます。エピブラスト幹細胞も ES 細胞同様に三胚葉全てへの分化が可能ですが、培養したときに扁平なコロニーを形成するなど ES 細胞とは異なる様相を見せ、生殖細胞への分化能は有しません。また形態的な特徴だけではなく、活性化されているシグナル伝達経路や発現している分子も ES 細胞とは異なります。

ヒトの初期胚からも ES 細胞が樹立されています。ヒト ES 細胞では、自己複製能の促進と未分化状態の維持に関わる3 種類の転写因子、Nanog、SOX2、Oct4 が高いレベルで発現していますが、これはマウス ES 細胞と共通です。このことから、これら転写因子が多能性の維持に必須であると考えられます。

近年になり、分化した体細胞を人為的に「初期化」し、多能性を獲得させた幹細胞を創り出す技術が開発されました。そう、京都大学の山中伸弥教授により発表され命名された人工多能性幹細胞(iPS 細胞)です。この年 2008 年は幹細胞研究のブレークスルーの年になりました。

初めての iPS 細胞は 2006 年に、マウスの尾由来の皮膚細胞に、Oct4、SOX2、c-Myc、Klf4 の 4 種類の遺伝子を導入し、形質転換させて作製され、その後ヒト細胞由来の iPS 細胞が生み出されることとなりました。ヒト iPS 細胞の作製の場合には、マウスの場合と同じ遺伝子か、または Oct4、SOX2、Nanog、Lin28 の 4 種類の遺伝子の導入が必要です。ヒト、マウスそれぞれの細胞由来の iPS 細胞の形態、性質、遺伝子発現は異なります。ヒト iPS 細胞は、三胚葉それぞれの特徴を持つ細胞へと分化させることが可能です。一方マウス iPS 細胞は、三胚葉全てを含む腫瘍を形成することができ、初期マウス胚に移植されると異なる組織へと分化すること(キメラ形成)ができます。

臨床への応用

成熟細胞の脱分化や幹細胞の多能性の維持に関わる遺伝子や因子の研究により、樹立した幹細胞を培養維持するための条件を設定することができるようになりました。またポイントとなる因子やシグナル伝達の理解により、幹細胞の様相や分化条件、関与している遺伝子調節ネットワークなどの解明が進むにつれ、リプログラミングおよび目的の細胞タイプへの誘導分化のコントロールも、徐々にではありますができるようになってきています。

このようなコントロールができるようになることにより、特定の組織や細胞群がダメージを受けたり欠損したりすることが原因で起こる疾患の治療法として、多能性幹細胞から作製した細胞や組織で補う、いわゆる再生医療への応用の可能性が開けてきました。このような疾患には加齢黄斑変性症、脊椎損傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、心臓発作、脳卒中、糖尿病などといったさまざまなものがあります。これら疾患はいずれもこれまで、根本的な治療は難しいとされてきましたので、このような治療法の開発は今後の医療に大きなインパクトを与えることになるでしょう。

また幹細胞の応用としては、特定の組織や細胞を in vitro で作り出すことによるモデル系の開発も挙げられます。疾患の原因と発症メカニズムの研究や、薬剤の効果や組織特異的なダメージを調べるのに非常に有用であると期待されます。

幹細胞マーカー

いずれの用途への応用においても、幹細胞マーカー Stem cell marker を利用しての細胞の選別が重要になってきます。それらマーカーに対する抗体を用いれば、マーカーの発現レベルを、免疫細胞染色 ICC、免疫蛍光細胞染色 IF、あるいはフローサイトメーターで確認することができます。またフローサイトメーターを用いて分離することもできます。

アブカムは幹細胞の研究およびその臨床への応用に有用な、幹細胞マーカーおよび分化マーカーに対する抗体製品を多数ラインアップしています。その製品の中には、複数のマーカーを組み合わせて容易に染色、同定、分離することができる直接蛍光標識抗体もあります。ぜひご活用ください。





マーカー分子発現細胞細胞内局在概要
Nanogマウス ES、ヒト ES、ヒト iPS

転写因子。Oct-4、SOX2 共に多能性の維持に必須。発現は Oct-4 や SOX2 などの制御を受ける。

Oct4ES、iPS転写因子。Nanog、SOX2 共に多能性の維持に必須。
SOX2マウス iPS、ヒト iPS転写因子。Oct-4、SOX2 共に多能性の維持に必須。
c-Mycマウス iPS、ヒト iPS転写因子・癌遺伝子。ヒト多能性幹細胞、マウス多能性幹細胞の作製時に導入する。
Klf4マウス iPS、ヒト iPSジンク・フィンガー転写因子。ヒトおよびマウス多能性幹細胞の作製時に導入する。
Lin28ヒト iPS細胞質、核マイクロ RNA 結合タンパク質。ヒト多能性幹細胞の作成時に導入する。
TRA-1-60ヒト ES、ヒト iPS細胞膜ヒト幹細胞およびヒト胚性生殖細胞の細胞膜に局在する。マウス ES 細胞には存在しない。
SSEA-4ヒト ES、ヒト iPS細胞膜

ヒト ES 細胞およびヒト胚性生殖細胞の細胞表面上に発現する糖鎖。マウス ES 細胞には存在しない。

SSEA-1マウス ES細胞膜、ゴルジ体マウス ES 細胞およびマウス胚性生殖細胞の表面上に発現する糖鎖。ヒト胚性生殖細胞にも存在するが、ヒト ES 細胞には存在しない。

References

Takahashi K, Yamanaka S. (2006). Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors. Cell, 126(4): 663-76.

登録