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はじめに
中枢神経系(Central nervous system; CNS)は、活動電位の伝達を仲介する約 1012 個のニューロン(Neuron)から成るネットワークです。ニューロンの機能は非常に重要ではありますが、神経組織を構成する細胞の約 90 % はグリア細胞(Glia)です。発見当初、グリア細胞は不活性な細胞で、物理的にニューロンを支える役割を務めているだけだと考えられていました。その名前がニカワ、接着剤を意味する glue に由来しているのはそのためです。
しかしながら現在では、グリア細胞は、恒常性の維持や発生の過程において、能動的かつ重要な役割を担っていることが知られてきました。グリア細胞はアストロサイト(Astrocyte)、オリゴデンドロサイト(Oligodendrocyte)、上衣細胞(Ependymal cell)、ミクログリア(Microglia)と呼ばれる 4 種類の細胞に分類されます。
アストロサイト
アストロサイトは血管系とニューロンとを結びつけ、血流からニューロンへグルコースなどの栄養物質を供給する働きを担っています(Tsacopoulos and Magistretti 1996; Magistretti and Pellerin 1999)。アストロサイトにおいて、グルコースはニューロンの主要なエネルギー源である乳酸へと代謝されます。
またアストロサイトは、グルタミン酸や GABA などの神経伝達物質の取り込みや(Kimelberg and Katz 1985; Kimelberg and Norenberg 1989; Schousboe et al., 2004)、細胞外カリウムイオン濃度の調節といった、活動電位の伝達においても非常に重要な役割を担っています(Ransom and Sontheimer 1992; Newman and Reichenbach 1996)。
"アストロサイトは血管系とニューロンを結びつけ、グルコースなどの物質を血流からニューロンへ供給します"
さらにアストロサイトは、神経が損傷を受けた後の瘢痕形成、神経栄養因子(Neurotrophin)の合成と放出、さらには免疫系などにも関与していることが示されています(Fontana et al., 1984; Constantinescu et al., 2005; Alarcon et al., 2005; Hull et al., 2006; Fawcett and Asher 1999; Silver and Miller 2004)。
発生の過程では、神経細胞の移動が完了するとアストロサイトに分化する細胞である放射状グリア細胞(Radial glia)が神経細胞の移動とシナプス形成を支持するマトリックスをもたらします(Ransom and Sontheimer 1992; Chanas-Sacre et al., 2000; Mori et al., 2005)。
図1:神経培養における GFAP 陽性アストロサイト
小脳顆粒神経細胞を 7 日間培養後、アストロサイトを同定するために、GFAP(Glial fibrillary acidic protein)抗体 ab7260 で染色を行った。二次抗体としてビオチン標識抗マウス IgG 抗体を反応させた後、アビジンービオチンーHRP 複合体を室温で 1 時間反応させ、DAB で発色させた。細胞数の推定はヘマトキシリンの対比染色により行い、神経細胞の同定は形態学的基準により行った。
オリゴデンドロサイト
オリゴデンドロサイトはいくつかの短い突起を有する細胞で、これらの突起は中枢神経系に存在するニューロンの軸索に巻きついており、それにより軸索に髄鞘(ミエリン; Myelin)が形成されます。髄鞘の主な役割は、髄鞘のとぎれ目であるランヴィエの絞輪から次の絞輪への活動電位の伝導(跳躍伝導)を仲介することで、これによりニューロンの信号伝達速度が高まります(Ransom and Sontheimer 1992; Edgar and Garbern 2004)。なお末梢神経系において髄鞘は、シュワン細胞(Schwann cell)によって形成されます(Torigoe et al., 1996)。
またオリゴデンドロサイトは NGF(Nerve growth factor)、BDNF(Brain derived neurotrophic factor)、Neurotrophin-3 など多数の神経栄養因子を分泌し、これらを周囲のニューロンに供給します(Dai et al., 2003)。
上衣細胞
上衣細胞は脳室系(脳室と脊髄中心管)を覆っている細胞ですが(Del Bigio 1995)、その機能はこれまでのところほとんど明らかになっていません。しかしながらこの細胞は協調的に運動する微絨毛を有していることから、脳脊髄液(CSF)の液流の方向性に関与すると考えられています。脳脊髄液流の方向性は脳への栄養の輸送や有毒な代謝産物の除去を促進し、その乱れは水頭症を引き起こします。
また上衣細胞は、発生の初期段階における軸索ガイダンスとしても機能することが示唆されています。
ミクログリア
ミクログリアは中枢神経系において免疫を担当する細胞です。脳実質に多量に存在しており、成体における細胞数は、グリア細胞の総細胞数のおよそ 10–20 % とされています(Vaughan and Peters 1974; Banati 2003)。ミクログリアは卵黄嚢由来の前駆細胞から産生され、個体発生の過程で卵黄嚢から循環器系を介して中枢神経系に移動することが、近年明らかにされました(Florent et al., 2010)。
"成体脳におけるミクログリアの細胞数は、グリア細胞の総細胞数のおよそ 10–20 % とされています"
ミクログリアは小型の細胞で、分岐した細長い突起とわずかな細胞質から成ります。これまでミクログリアは生理的条件下において不活性だと考えられてきました。しかし現在では、ミクログリアは貪食能と限局的な運動性を有すること(Booth and Thomas 1991; Glenn et al., 1991)、ラミファイド型ミクログリア(平常時のミクログリア)であっても突起伸縮を示して活動していること(Nimmerjahn et al., 2005)が明らかになっています。
ミクログリアの突起は、ニューロン、アストロサイト、血管内皮細胞などに直接接触しています(Nimmerjahn et al., 2005)。またミクログリアには神経伝達物質の受容体が存在することから、ニューロンなど周囲の細胞から放出された神経伝達物質に対する応答能があると考えられます(Boucsein et al., 2003; Light et al., 2006; Taylor et al., 2003,2005)。これらのことからミクログリアは、脳神経系の健康状態を監視し、恒常性を維持する機能を有すると考えられています(Booth and Thomas 1991; Thomas 1992; Fetler and Amigorena 2005)。
ラミファイド型ミクログリアは細胞の損傷や病原体の侵入を認識すると、マクロファージと非常に良く似た形態のアメボイド型ミクログリア(活性型ミクログリア)へと変化します(Kreutzberg 1996; Stence et al., 2001)。アメボイド型ミクログリアは損傷または感染部位に集積し(Giordana et al., 1994; Dihne et al., 2001; Eugenin et al., 2001)、傷害を受けた細胞やその破片を貪食することで、神経を保護します。急性の傷害では、ミクログリアの活性のピークは傷害を受けてから 2-3 日後ですが、傷害が持続した場合には、ミクログリアの活性化は慢性化します(Banati 2003)。
ミクログリアは、成体においては病的な状態においての役割が主です。しかしながら個体発生の過程においては、不適切な軸索の除去や(Innocenti et al., 1983; Marin-Teva et al., 2004)、軸索の伸長の促進など(Polazzi and Contestabile 2002)、生理的に極めて重要な役割を担っています。
Written by C. Hooper and J.M. Pocock.
J.M. Pocock - Cell Signalling Laboratory, Department of Neuroinflammation, Institute of Neurology, University College London, 1 Wakefield Street, London, WC1N 1PJ.