パーキンソン病の概要

パーキンソン病は古くから知られ、研究が進められている疾患であるにもかかわらず、診断に有用なバイオ・マーカーや確実な治療法は、未だに確立されていません。

神経細胞死

​​運動緩慢、安静時振戦、筋固縮などを示す神経変性疾患であるパーキンソン病(Parkinson’s disease)の病理学的特徴は、中脳黒質の緻密部におけるドーパミン作動性ニューロン(Dopaminergic neurons)の減少です1。ドーパミン作動性ニューロンが減少すると、運動機能を調節する神経伝達因子であるドーパミン Dopamine の組織内濃度が低下し、パーキンソン病患者に特徴的な運動症状を発症します。

パーキンソン病患者の組織において神経細胞死が起こっている領域には、レビー小体(Lewy body)と呼ばれるタンパク質の凝集体が認められることから、これがパーキンソン病の発症に関与していることが疑われています。レビー小体は β シート・リッチな繊維状構造物で、その主要な構成成分はミスフォールドされた α-シヌクレイン(α-Synuclein)であり、その多量化と蓄積は神経細胞死が起こるかなり前から始まっていると考えられています。またこのミスフォールドされた α-シヌクレインはプリオン様に神経細胞間を移動し、正常な α-シヌクレインにミスフォールドを誘導する、テンプレートとしても働くと考えられています2

マウスを多光子イメージングした最近の研究において、レビー小体を形成した神経細胞が選択的に細胞死を起こしていることが観察されています4。このことはレビー小体そのものが細胞毒性を有することを示唆しています。一方でレビー小体は神経細胞に保護的に働くという考えもあります。このようにレビー小体の、神経細胞死およびパーキンソン病の発症への関与は、未だ明らかになっておらず、現在も活発に研究が行なわれています。

発症の原因

血縁者にパーキンソン病患者を持つ家族性パーキンソン病は、発症者の 10 % 未満です5。従ってパーキンソン病の発症の主な原因は遺伝性のものではなく、その他の因子(酸化ストレス、異常タンパク質の凝集、ミトコンドリアの損傷など)であると考えられます。

1. 遺伝的要因

家族性パーキンソン病の解析から、SNCALRRK2PRKNDJ1PINK1ATP 13A2 の 6 つが原因遺伝子として同定されています6,7。また遺伝子 MAPTLRRK2SNCA の多型と、遺伝子 GBA の変異による機能欠損が、危険因子になると考えられています6

2. タンパク質のミスフォールディングと凝集

前述の通り、パーキンソン病の発症には、α-シヌクレインのミスフォールディングと凝集が関わっていると考えられています8。 α-シヌクレインがミスフォールディングされると、ユビキチン-プロテアソーム・システム(UPS)やオートファジー-ソソーム・パスウェイ(ALP)と いった、いわゆる細胞内品質管理システム(Protein caretaking systems)の能力が低下します。そしてフィードバック・ループにより、ミスフォールドされた異常な α-シヌクレインが凝集し、細胞内品質管理システムの機能をさらに低下させ、最終的に神経細胞死を引き起こします9,10,11。近年、オートファジー-ソソーム・パスウェイの機能維持において転写因子 Lmx1b が必須であり、これがドーパミン作動性ニューロンを長期間生存させるのに重要な働きを持つことが報告されています12,13

3. 酸化ストレス

パーキンソン病は細胞に酸化ストレスを引き起こします。ドーパミンはモノアミン酸化酵素 B(Monoamine oxidase B)により代謝され、過酸化水素を産生させます。通常の状態において、細胞にとって有害な過酸化水素などの活性酸素種(ROS)は、グルタチオン(Glutathione; GSH)によって除去され、細胞内で安全な濃度に保たれています。パーキンソン病患者の脳組織においては、グルタチオン量の低下14と、ドーパミン作動性ニューロンの減少によるドーパミンの代謝回転の活発化によって活性酸素種濃度が増加し、脂質の過酸化などにより細胞がダメージを受けます。またドーパミンが酸化されることによって生ずる DA キノン(DA quinone)は、ミトコンドリア機能に異常を誘発し、またパーキンソン病の発症に関連する α-シンクレイン、Parkin、DJ-1、UCH-L1(PGP9.5)といったタンパク質を修飾します15,16

4. ミトコンドリアの機能異常

ミトコンドリアへの過度のダメージは、パーキンソン病の発症につながります。これには、ミトコンドリアに局在し、ミトコンドリアの機能に必須であるシトクロム c(Cytochrome c)、PINK1、Parkin といったタンパク質17 が関与しています。電子伝達系 Complex I の機能低下、活性酸素種による脂質二重膜の過酸化、遺伝子の変異などが起こるとミトコンドリアがダメージを受け、シトクロム c が放出され、細胞にアポトーシスが誘導されます15,16。ダメージを受けたミトコンドリアの外膜には PINK1 が蓄積し、そこで Parkin と会合してマイトファジーを誘導します18。このように機能不全となったミトコンドリアの細胞内での蓄積は、若年性パーキンソン病を引き起こします18

5. 神経の炎症反応

ドーパミン作動性ニューロンの減少が進むと、LRRK2、α-シヌクレイン、Parkin、DJ-1 などのタンパク質により、グリア細胞の一種であるミクログリアが活性化します。過剰に、または慢性的に活性化したミクログリアは活性酸素種を放出し続け、さまざまな炎症反応を引き起こし、永続的に神経細胞を変性させます19,20,21,22。LRRK2 はこの炎症反応に重要な役割を果たしているとされており23、その発現は過剰な α-シヌクレインにより強く誘導されます。LRRK2 ノックアウト・ラットでは、α-シヌクレインの過剰発現によるドーパミン作動性ニューロンの変性や神経炎症応答が起こらないとの報告があり24、注目されています。

まとめ

パーキンソン病は遺伝子と細胞機能、両者の不全により発症する複合的な疾患です。酸化ストレスより誘導されるタンパク質発現と、ミスフォールドなどで生じたタンパク質の品質管理不全によってフィードバック・ループが複数起こり、ミトコンドリアの機能異常、神経の炎症などが引き起こされ、アポトーシス、神経細胞死につながります。

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