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健常なアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein; APP)は、βセクレターゼとγセクレターゼの連続的な作用により、病原性βアミロイド(Aβ)ペプチドに切断されます。同様に、タウ・タンパク質はGSK3などのキナーゼによって過剰にリン酸化され、まず、対らせん状細線維(paired helical filaments; PHF)を形成し、その後、神経原線維変化(neurofibrillary tangles; NFT)を形成します。
ここでは、βアミロイドとタウの機能や構造などの概要や、アルツハイマー病の研究に必要な抗体やキットをご紹介します。
目次
アルツハイマー病は、脳内に神経毒性を持つAβ斑(プラーク)の沈着が特徴的です。このプラークは、単量体のAβが自発的に集合して可溶性のオリゴマーとなり、それが集積して不溶性の線維(フィブリル)を形成することによってできます。アルツハイマー病では、可溶性オリゴマーと不溶性線維の両方が病態に関与していることが示唆されていますが、その正確な役割についてはまだ議論が続いています。ここでは、APPからAβが産生される過程と、アルツハイマー病の複雑な病態にAβの構造バリエーションが関与している可能性についてご説明します。
病原性のあるAβペプチドは、APPがβセクレターゼおよびγセクレターゼ酵素複合体に切断され、産生されます。APPの切断は、2つの異なる経路で行われます(図1)。非アミロイド形成経路は有益な神経栄養効果をもたらし、アミロイド形成経路は神経毒性を有するAβペプチドを産生します。アミロイド形成経路で産生されたAβペプチドは、ミスフォールドして凝集し、アルツハイマー病の病態の原因となる沈着物を産生する可能性があります。
図1. APPプロセッシングの非アミロイド形成経路とアミロイド形成経路。
非アミロイド形成経路
非アミロイド形成経路では、αセクレターゼによってAPPが切断され、膜に残る83アミノ酸のC末端断片(C83)と細胞外培地に放出されるN末端細胞外ドメイン(sAPPα)の2つの断片が形成されます。
αセクレターゼ活性を持つ酵素としてADAM9、ADAM10、ADAM171の3つが同定されています。重要な点はαセクレターゼによるAPPの切断はAβドメイン内で起こるため、Aβペプチドが産生されないという点です。
特に、C83膜フラグメントは、その後γセクレターゼによって切断され、P3ペプチドと呼ばれる短いフラグメントとAPP細胞内ドメイン(AICD)が産生されます。現在のところ、P3ペプチドは病態とは無関係であると考えられています2。
アミロイド形成経路
アミロイド形成経路は、神経毒性を持つAβの産生につながります。βセクレターゼ(BACE1)が最初にAPPを切断することで、大きなN末端細胞外ドメイン(sAPPβ)が細胞外培地中に放出される一方、99アミノ酸のC末端フラグメント(C99)は膜に残ります3-5。
新たに露出されたC99のN末端は、Aβの最初のアミノ酸に相当します。この断片がγセクレターゼによってさらに38~43番残基間で切断されることにより、Aβペプチドが遊離します。γセクレターゼは、プレセニリン 1または2(PS1およびPS2)、ニカストリン、anterior pharynx defective(APH-1)、presenilin enhancer2(PEN2)からなる酵素の複合体です6-10。
Aβペプチドの多くは40残基(Aβ 1-40)ですが、ごく一部は42残基(Aβ 1-42)です。Aβ1-42は、アミノ酸残基が2つ余分にあるためにミスフォールドしやすく、凝集しやすいので、より神経毒性が強いと考えられています11。また、Aβ1-42の血漿中濃度の上昇は、アルツハイマー病と相関しています12。
BACE阻害剤
アルツハイマー病の進行を遅らせるためには、Aβの産生を阻害することでAβの蓄積を標的とすることが重要です。いくつかのβセクレターゼ阻害剤を利用することでAPPの切断を阻害することが可能です。
表1. βセクレターゼとAβ産生を標的とした代表的な阻害剤。
Small molecule | Activity | abID |
β-Secretase Inhibitor II (Z-VLL-CHO) | Peptidyl β-secretase inhibitor (reversible). Corresponds to the VNL-DA cleavage site on APP13. | |
Loganin | Selective β-secretase inhibitor. Shows neuroprotective effects against Aβ(25-35)-induced cell death16. | |
LY2886721 | Potent and selective BACE-1 inhibitor (IC50 = 20.3 nM for recombinant hBACE-1)17. | |
Nilvadipine | Potent Ca2+ channel blocker that promotes Aβ clearance from the brain and reduced tau hyperphosphorylation18. | |
Verubecestat (MK-8931) | Selective, potent β-secretase 1 inhibitor (IC50 = 13 nM)19. |
表2.
Target | Tools |
Beta-amyloid | |
β-secretase | |
アルツハイマー病におけるAβの役割を解明する上で障害となっているのは、脳内のAβ量と患者の認知能力との間に相関性がないということです。例えば、Aβの沈着が見られる患者でも、アルツハイマー病の症状を全く示さない人もいます20,21。
アルツハイマー病の不均一性への答えは、Aβの立体構造的なバリエーションにあるのかもしれません。Aβは、segmental polymorphismと呼ばれるプロセスで多様な形態のAβオリゴマーを形成することができます。これは、βシートを構成するセグメントが、異なる線維構造間で多様であるということです22-24。
したがって、プリオン病と同様に、構造的に異なる形態のAβが、アルツハイマー病患者の脳内の異なる場所で異なる時期に沈着している可能性があります。一方で、どのような種類の沈着が本疾患の認知症状と密接に関連しているのかについては、未だによくわかっていません25。
立体構造特異的な抗体の必要性
Aβの構造バリエーションが生物医学的に重要だと裏付ける証拠が増えつつある中、立体構造特異的なAβイメージング試薬は、今後のアルツハイマー病研究において中心的な役割を果たすと考えられています。
ヒトを対象とした研究により、Aβの構造バリエーションが臨床的に重要であることが示されています。異なる病歴を持つ2人のアルツハイマー病患者から採取した組織から、それぞれの患者において優勢なAβ線維構造を特定したところ、その構造は異なっていました26。
マウスや培養細胞を用いた研究でも、Aβの構造バリエーションが生物学的に重要であることが裏付けられています。構造的に異なるAβ線維は、神経細胞培養において異なるレベルの毒性を引き起こす一方、異なる供給源からのAβを投与されたマウスの脳内では異なるパターンのAβ沈着物が生成されます27,28。
さらに、Aβの構造の複雑さは免疫系にも反映されており、Aβ線維に反応して作られる抗体は、その構造バリエーションを反映して多様であることが研究により明らかにされています25,29。
すべての証拠を考慮すると、単一の抗体では、アルツハイマー病に寄与するすべての病原性Aβの凝集体を研究したり、標的にしたりするのに十分でないことが明らかになってきています。このため、立体構造特異的なAβ抗体は、将来のアルツハイマー病研究にとって不可欠なツールとなるでしょう30–33。
Charles Glabe教授(カリフォルニア大学アーバイン校)と共同で、アミロイドの立体構造バリエーションを識別できる抗Aβ 1-42線維 ウサギ・モノクローナル抗体を開発しました。
表3. ヒトおよびマウスのアルツハイマー病脳における抗体反応性。
Antibody name | Antibody ID | Human Alzheimer's brain specificity shown by IHC** | Alzheimer's mouse model* brain specificity shown by IHC** |
Anti-amyloid fibril antibody [mOC22] - conformation-specific | Frontal cortex plaques | Layer V cortical and CA1 pyramidal neurons | |
Anti-beta amyloid 1-42 antibody [mOC23] - conformation specific | Subset of frontal cortex plaques | Hippocampal plaques | |
Anti-beta amyloid 1-42 antibody [mOC31] - conformation-specific | Vascular amyloid deposits | N/A | |
Anti-beta amyloid 1-4 antibody [mOC64] - conformation-specific | Frontal cortex plaques | N/A | |
Anti-amyloid fibril antibody [mOC78] - conformation specific | Intracellular/nuclear, frontal cortex plaques | Layer V cortical neurons | |
Anti-amyloid fibril antibody [mOC87] - conformation-specific | Frontal cortex plaques | Layer V cortical neurons (intracellular deposits) | |
Anti-beta amyloid 1-42 antibody [mOC98] - conformation-specific | Frontal cortex plaques | Layer V cortical neurons (intracellular deposits) | |
Anti-amyloid fibril antibody [mOC116] - conformation specific | Frontal cortex plaques | Layer V cortical neurons, hippocampal plaques |
*14 month-old 3xTg-AD mouse model of Alzheimer's disease
** IHC shown in Hatami et al. 2014
タウ・タンパク質とアルツハイマー病への関与について簡単にご紹介します。
通常、タウ・タンパク質(Tau protein)は微小管結合タンパク質(Microtubule-associated protein; MAP)の一種として微小管を安定化しています。しかし、アルツハイマー病などの神経変性疾患において重要な役割を果す、多機能タンパク質でもあります34。
タウ・タンパク質は可溶性が高く、中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)内のニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイトに発現しています35,36。
タウは、主に軸索に局在し、微小管の重合と安定化を制御しています。しかし、幅広いタンパク質と相互作用を示すことから、生後の脳の成熟、軸索輸送およびシグナル伝達カスケードの制御、ヒートショックに対する細胞応答、成体の神経発生など、多機能であることが示唆されています37。
タウ・タンパク質はその機能から、 N 末端近傍領域、プロリン・リッチ領域(Proline-rich domain; PRD)、微小管結合領域(Microtubule-binding domain; MBD)、C 末端近傍領域の 4 つの領域に分けられます38。ヒトのタウ・タンパク質遺伝子(MAPT)には 16個 のエクソンがあり、エクソン 2、3、10 が選択的スプライシングされ、6 種類のアイソフォームが存在します(図2)。
タウ・タンパク質のリン酸化部位はセリン(S)、スレオニン(T)、チロシン(Y)、合わせて 85個あり、通常は細胞骨格構造の維持に重要な役割を果たします39。タウの異常なリン酸化はアルツハイマー病の病態に関与しており、リン酸化部位のうち45個程度がアルツハイマー病患者の脳で特定されています39,40。
なおタウ・タンパク質はリン酸化以外にも、糖鎖修飾、糖化、トランケーション、ニトロ化、酸化、重合化、ユビキチン化、SUMO化、凝集などさまざまな翻訳後修飾を受けます41。
図2. タウ・タンパク質には選択的スプライシングにより、352~441 アミノ酸残基のアイソフォームが存在します。N 末端近傍領域には N1 と N2 という 2 種類のインサートがあり、タウ遺伝子のエクソン 2 および 3 にそれぞれにコードされています。選択的スプライシングによりエクソン 2 および 3 の両方が欠損すると 0N 型、エクソン 2 のみがある場合は 1N 型、エクソン 2 および 3 の両方がある場合は 2N 型のアイソフォームとなります。微小管結合領域は R1~R4 で表される 4 つの領域があり、そのうちエクソン 10 にコードされている R2 の有無で 4R 型もしくは 3R 型のアイソフォームとなります。
プラークと細胞内神経原線維変化(NFT)の蓄積(図3)はアルツハイマー病の症状と関連しており、細胞損傷や細胞死に至ります42。現在ではプラークやNFTの蓄積とは別に、可溶性のAβとタウが連動して神経細胞を疾患状態へと進行させていると考えられています42。
図3. アルツハイマー病などのタウオパチーでは、タウ・タンパク質による神経原線維変化(NFT)が形成されます。病態下では、タウは過剰にリン酸化され、微小管から遊離します。そして、リン酸化されたタウは凝集し、対らせん状細線維 (PHF)やNFTを形成します。
アルツハイマー病では細胞内の可溶性 Aβ が増加するとタウ・タンパク質の異常リン酸化が誘導され、微小管から可溶性の単量体タウ・タンパク質が遊離します39,43。その後、遊離したタウ・タンパク質は軸索から神経細胞の細胞体樹状突起部分に移動します43。移動したタウはSrc チロシンキナーゼである fyn と相互作用し、fyn を樹状突起に局在させます44。
高濃度となった fyn は活性化して興奮性 NMDA 受容体 GluN2B をリン酸化し、安定化します。これによりグルタミン酸シグナル伝達が増幅され、細胞内への Ca2+ 流入量が増加し、Aβ の毒性が増加します42,44,45。カルシウム誘導型の興奮毒性はシナプス後部にダメージを与え、ミトコンドリアの Ca2+ 過負荷、膜の脱分極、酸化ストレス、アポトーシスなどを誘導します42,46,47。
Aβ 斑や NFTはプリオンのように、異常なタンパク質から正常なタンパク質へと異常性が伝播しますが、これには細胞外小胞が関係している可能性があります48,49。
アルツハイマー病の新規治療戦略として、樹状突起のfynレベルを下げる18か、タウを直接標的とする50ことにより、Aβ誘導性、タウ依存性のNMDA受容体活性の亢進を防ぐ方法が考えられています。
タウをあらゆる角度から研究するための包括的な研究ツールで、タウの病態に対する新たな洞察を得ることができます。凝集阻害剤からキットや抗体まで、タウ凝集の解明に必要なものを集めました。
総タウ検出
タウは正常脳内では可溶性ですが、アルツハイマー病では凝集して不溶性になります。下表の牛血清アルブミン(BSA)とアジ化ナトリウム・フリー抗体、抗体パネル、ELISAキットを用いて、簡単に総タウを検出することができます。
表4. 総タウを検出するためのツール。
Reagent | Recommended product | abID |
Total tau antibody | Anti-Tau antibody [TAU-5] - BSA and Azide free | |
Conformation specific tau antibody | Anti-tau Alzheimer's disease antibody [GT-38] - Conformation Specific | ab246808 |
Tau antibody panel | Tau Research Antibody Panel | |
ELISA | Human Tau ELISA Kit |
Note: Studying insoluble tau can be problematic, consider using detergents such as RIPA and Sarkosyl.53
タウのリン酸化
タウの機能はリン酸化に支配されており、病態に伴いリン酸化が制御不能となり、誤った局在化、凝集、そして神経細胞死が引き起こされます。それぞれの翻訳後修飾部位に対する抗体を用いて、タウのリン酸化のあらゆる側面を簡単に研究することができます。
リコンビナント 抗Tau (phospho T217) 抗体 [EPR24654-24] (ab288160) Tau (phospho T217)に対するウサギ・モノクローナル抗体 適用: ドットブロット、ELISA 交差種: ヒト キャリアフリーな形態もございます。 |
表5. リン酸化タウを研究するためのツール。
Phosphorylation site | Recommended product | abID |
Serine 202 and threonine 205 | Anti-Tau (phospho S202 + T205) antibody [EPR20390] | |
Threonine 231 | Anti-Tau (phospho T231) antibody [EPR2488] | |
Serine 396 | Anti-Tau (phospho S396) antibody [EPR2731] | |
Serine 422 | Anti-Tau (phospho S422) antibody [EPR2866] |
複数の抗リン酸化タウ抗体が必要な場合は、Tau antibody panel (ab226492)をお試しください。
タウ凝集阻害剤
凝集したタウの存在は、アルツハイマー病などの病態と関連があります。強力なタウ凝集阻害剤でNFTの形成を効果的に阻害します。
表6. タウ阻害剤
Small molecule | Activity | abID |
INDY | ATP-competitive DYRK1A/B inhibitor capable of reversing tau phosphorylation54. | |
GSK-3β Inhibitor VII | Cell-permeable, non-ATP competitive GSK-3β inhibitor | |
YM-01 (YM-1) | Allosteric Hsp70 modulator which potently reduces aberrant tau levels (EC50 ~ 0.9 μM)56. |
タウと神経炎症
神経変性疾患におけるミスフォールドタンパク質と神経炎症の間には、複雑な関係性があります。
表7. 神経炎症を研究するためのツール。
Tool | Recommended product(s) | abID |
Mouse and human multiplex cytokine panels | Human Key cytokines (17 plex) Multiplex Immunoassay Panel Mouse Key cytokines (17 plex) Multiplex Immunoassay Panel | |
TNF alpha ELISA kit | Mouse TNF alpha ELISA Kit | |
IL-1 beta ELISA kit | Mouse IL-1 beta ELISA Kit (Interleukin-1 beta) | |
IL-6 ELISA kit | Human IL-6 ELISA Kit (Interleukin-6) High Sensitivity |
37. Morris, M., Maeda, S., Vossel, K. & Mucke, L. The many faces of tau. Neuron 70, 410–426 (2011).
44. Haass, C. & Mandelkow, E. Fyn-tau-amyloid: a toxic triad. Cell 142, 356–8 (2010).