アポトーシスの概要

アポトーシスに付随して起こる、生化学的あるいは形態学的特徴はさまざまです。アポトーシスを研究するに当たっては、これらを検出・観察することが重要です。


アポトーシス(Apoptosis)とネクローシス(Necrosis)は、いずれも代表的な細胞死ですが、多くの違いがあります。例えばアポトーシスにおいてはネクローシスとは異なり、炎症のように他の細胞へ悪影響を及ぼすような反応はありません。一方でアポトーシスは、ネクロトーシス(Necroptisis)やオートファジー(Autophagy)などの他の細胞死と共通する特徴もあります。

アポトーシスの特徴には、細胞の収縮、細胞膜のブレビング、染色体の凝縮(Pyknosis)、核の断片化 (Karyorrhexis)、DNA のラダー形成、そしてファゴソームによる細胞の貪食などがあります。アポトーシス、ネクローシスなどの細胞死は、形態学的および生化学的に異なる複数の経路によって起こるので、それぞれの細胞死を同定し、またそれらのメカニズムを研究するためには、時間を追い、上記特徴を検出する複数のマーカーについて検証する必要があります。


アポトーシスのメカニズム

アポトーシスにおいてその実行に大きく関わるのは、カスパーゼ(Caspase)と呼ばれる、システイン-アスパラギン酸プロテアーゼに部類されるタンパク質分解酵素です。カスパーゼは十数種類が知られていますが、それらが 400 以上のタンパク質を厳密に認識し分解することで、細胞死が進行します。アポトーシスが誘導される要因には内因性と外因性がありますが、いずれの経路もカスパーゼが活性化されることによって開始し、進行します。

内因性経路は、ミトコンドリアに局在する Bcl-2 ファミリータンパク質を介して制御されています。内因性経路の活性化の要因は、DNA ダメージ、がん遺伝子の活性化、成長因子の欠乏、ER ストレス、ミトコンドリアの崩壊などさまざまです。これら内因性経路における重要なステップが、ミトコンドリア外膜における透過性の上昇であり、細胞死が進行する上での ”No return point(帰還不能点)” となります。透過性が上昇すると、シトクロム C(Cytochrome C)をはじめとしたさまざまなタンパク質がミトコンドリア膜間腔より放出されます。シトクロム C は APAF-1 (Apoptosis protease-activating factor 1) と結合し、多量体化してアポトソーム(Apoptosome)と呼ばれる複合体を形成します。アポトソームは誘導型カスパーゼである Caspase-9 をリクルートし活性化します。次いで Caspase-9 が実行型カスパーゼである Caspase-3 および Caspase-7 を切断・活性化することで、アポトーシスが進行します。

外因性経路は、Fas、TNFR1、TRAIL などのリガンド細胞表面の細胞死受容体(Death receptor)に結合し、その受容体が活性化されることによって開始します。細胞死受容体には細胞死ドメイン(Death domain; DD) と細胞死エフェクター・ドメイン (Death effector domain; DED) と呼ばれる2つの異なるシグナル・モチーフがあり、FADD(Fas-associated death domain protein)や Caspase-8 などのアダプター分子をリクルートすることで、実行型カスパーゼであるCaspase-3 および Caspase-7 を切断・活性化することで、アポトーシスが進行します。


アポトーシスのパラメーター

アポトーシスでは、高度に制御された複雑なシグナル・カスケードが、さまざまなタイミングでスタートし、進行しています。それぞれのカスケードに関与するパラメーターを検出・評価することで、アポトーシスの進行をモニターすることができます。下記の図は主なアポトーシスのパラメーターと、それらを検出できるおおまかな相対的な時間を示しています。



これらのパラメーターは順番に起こるとは限らず、同じタイミングで起こっているものも多くあります。膜非対称性の消失(図中 1)やカスパーゼ・カスケードの開始(同 2)は、アポトーシスに特徴的な現象の一つですが、必ずしも細胞死に結び付くとは限りません。しかしミトコンドリア膜電位 ΔΨm の消失およびシトクロム C の細胞質への放出(同 3)など下流にあるパラメーターにまで進行すると通常、細胞は生存できません。

アポトーシスに付随して起こる、いくつかの生化学的あるいは形態学的特徴は、ネクローシスやネクロトーシスなどの他の細胞死でも観察されます。そのため、研究対象の細胞死がアポトーシスであることを同定するためには、2 つ以上のパラメーターを検出・解析することをお勧めします。

以下の表に、アポトーシスに付随して起こる主なパラメーターと、一般的な解析方法をまとめました。



アポトーシスのパラメーター

検出方法

サンプルの種類

細胞膜非対称性の破綻 (ホスファチジルセリン(PS)の露出)

フローサイトメトリーによる PS の検出(蛍光標識アネキシン V を用いる)

生細胞

抗アポトーシス性 Bcl-2 ファミリータンパク質の切断

ウエスタン・ブロッティングによる切断の検出

細胞抽出液
組織抽出液








カスパーゼの活性化

比色・蛍光マイクロプレート・アッセイによるプロテアーゼ活性の検出(発色・蛍光基質を用いる)

細胞抽出液

組織抽出液

フローサイトメーターまたは蛍光顕微鏡によるプロテアーゼ活性の検出(蛍光基質を用いる)

生細胞

ウエスタン・ブロッティングによる Pro および活性化カスパーゼの検出(カスパーゼ抗体を用いる)

細胞抽出液
組織抽出液

フローサイトメトリーまたは顕微鏡観察による抗体を用いた活性化カスパーゼの検出(活性化カスパーゼ抗体を用いる)

生細胞(フローサイトメトリー)

固定細胞(顕微鏡)

マイクロプレート・アッセイよる活性化カスパーゼの検出(活性化カスパーゼ抗体を用いる)

細胞抽出液

組織抽出液



カスパーゼ基質 (PARP)の切断

マイクロプレート・アッセイによる切断型 PARP の検出(切断型 PARP 抗体を用いる)

細胞抽出液

組織抽出液
生細胞 (In cell ELISA)

ウエスタン・ブロッティングによる切断型 PARP の検出(PARP 抗体を用いる)

細胞抽出液

組織抽出液

カスパーゼ以外のプロテアーゼ(カテプシンおよびカルパイン)の活性化

比色・蛍光マイクロプレート・アッセイによるプロテアーゼ活性の検出(発色・蛍光基質を用いる)

細胞抽出液

組織抽出液



ミトコンドリア膜電位(Δψm)の消失

フローサイトメトリーまたは顕微鏡観察による電位の検出(蛍光標識プローブを用いる)

生細胞

酸素消費量の測定

生細胞



シトクロム C の放出

ウエスタン・ブロッティングによる細胞質中シトクロム C の検出(シトクロム C 抗体を用いる)

細胞抽出液
組織抽出液

蛍光顕微鏡による細胞質中シトクロム C の検出(シトクロム C 抗体を用いる)

固定細胞

Sub G1 の増加

フローサイトメトリーによる sub G1 ピークの検出

固定細胞



核の凝縮

フローサイトメトリーによるクロマチン凝縮の検出

生細胞

顕微鏡によるクロマチン凝縮の検出

生細胞



DNA の断片化

アガロース・ゲルによる DNA ラダーの検出

DNA

TUNEL 法による DNA の断片の検出

生細胞



細胞膜のブレビング

光学顕微鏡による細胞膜のブレビングの検出

生細胞

ウエスタン・ブロッティングによる切断基質 (gelsoin, ROCK1) の解析

細胞抽出液

組織抽出液


登録