RNA 修飾抗体の評価のための適切なコントロール

RNA 修飾抗体のターゲットに対する認識が、本当に特異的で正しいものであるのか、確認するためのコントロール実験について解説します。

RNA 修飾抗体とは

RNA 修飾抗体(RNA modification antibodies)とは、N6-methyladenosine (m6A)などの修飾された(主にメチル化された)リボヌクレオチドを認識する抗体です。修飾部位の分子量が小さく、また各修飾 RNA それぞれの構造の違いも小さいため、そのような抗体を作製するのは難しく、またその評価(RNA修飾を特異的に認識しているかどうか)を行うことも簡単ではありません。また RNA 修飾はその機能や意味が明らかになっていないものが多いので、抗体がどのようなアプリケーションで使用されるかを想定することも難しいため、できるだけ多くのアプリケーションでの適用を確認しておかなくてはなりません。ここでは RNA 修飾抗体について、どのようなコントロールを使用してその評価を行っているかを説明します。


ドット・ブロッティング

ドット・ブロッティングはいわばウエスタン・ブロッティングの簡易版で、RNA 修飾抗体の反応性を簡便に確認できる方法です。ウエスタン・ブロッティングでは電気泳動したゲルをメンブレンに転写しますが、ドット・ブロッティングはサンプルを直接メンブレンにスポットします(サンプルをメンブレンに強固に固定させる、クロスリンクの操作を行う場合もあります)。ドット・ブロッティングのプロトコールはこちらをご覧ください。

RNA 修飾抗体の反応性を調べる場合、合成したターゲット修飾 RNA をメンブレンにスポットする方法がシンプルです。修飾されていない RNA やターゲットでない修飾の RNA をネガティブ・コントロールとしてスポットし、抗体の特異性を確認することもできます。また特異性の確認には、後述の通り RNase/DNase 処理や競合アッセイ2 と組み合わせて行うこともできます。

組織や細胞のライゼートをスポットしてドット・ブロッティングを行うこともできます。この場合のネガティブ・コントロールとしては、特定の修飾に関与する酵素の遺伝子がノックアウトされた細胞のライゼートを用います3,4。例えば m6A 抗体の特異性を調べる場合には、m6A 修飾酵素 ALKBH5 のノックアウト細胞を用います。このような細胞の RNA には m6A 修飾は存在しないため、ドット・ブロッティングでは m6A 抗体の反応は認められないはずです。


RIP-MS

もし液体クロマトグラフィー・タンデムーマス・スペクトロメトリー(LC-MS/MS)を行える環境であれば、これと RNA immunoprecipitation(RIP)との併用(RIP-MS)が、RNA 修飾抗体の特異性を確認する最も確実な方法と言えます5。RIP のプロトコールはこちらをご覧ください。なお m6A 抗体に関しては、この抗体に特化したこちらのプロトコールをご参照ください6

LC-MS/MS ではどのような生物種または細胞タイプであっても、それらのトータル RNA 中に存在する全ての RNA 修飾を平行して定量することが可能です(parallel quantification)。もし RIP 後のサンプルを LC-MS/MS で測定すると、インプットのサンプルよりもプルダウン後のサンプルの方が目的とする RNA 修飾が豊富に存在することが分かるはずです。さらにその同じデータから、抗体の特異性を確認することもできます。このような解析を容易に行うためのソフトウェアの開発も進んでいます7


RNase 処理

修飾 RNA 抗体の特異性を確認する上で最も基本的な操作であり、抗体が DNA や修飾 DNA とは反応しないということを確認します1。コントロール・サンプルで認められたシグナルが RNase 処理済みサンプルで得られなかった場合、そのシグナルは RNA に由来するものであり、抗体は RNA あるいは修飾 RNA を認識するということを示します。

RNase 処理のステップは、免疫組織染色、ドット・ブロッティング、RIP などさまざまな実験のプロトコールに、簡単に挿入することができます1。ただし処理条件は、アプリケーションの違いやサンプルの種類によって異なりますので、個々に検討してください。例えば反応時間はサンプルが組織でアプリケーションが IHC の場合約 1 時間、サンプルが細胞でアプリケーションが細胞染色の場合 10-30 分程度です。なお過剰なRNase 処理は DNA の分解も招き、DAPI などによる対比染色にも悪影響を及ぼしますので、避けてください。


DNase 処理

RNA 修飾と DNA 修飾は、修飾基や修飾位置がほぼ同じため(5mC など)、抗体が両方にクロスする可能性があります。そこで、抗体が RNA 修飾のみを認識し、DNA 修飾を認識しないことを確認する必要があります。その確認には、DNase 処理を行ったサンプルをネガティブ・コントロールとし、その反応を調べます。

DNase 処理の条件は、アプリケーションの違いやサンプルの種類によって異なるため、個々に検討してください。過剰な DNase 処理は RNA の分解も招く可能性がありますので、避けてください。


競合アッセイ

RNA 修飾抗体の特異性を確認する方法としては、競合アッセイもあります。このアッセイでは、免疫組織染色やドット・ブロッティングなどで抗体とサンプルを反応させる前に、その抗体とターゲットとなる修飾を行った RNA オリゴヌクレオチドをプレインキュベーションさせます。抗体が標識 RNA を特異的に認識する場合、プレインキュベーションした抗体の反応性は、消失するか、あるいはプレインキュベーションしなかった抗体よりも低下します2


実績のある修飾とその抗体を用いること

RNA 修飾は前述の通り、その機能や意味が明らかになっていないものが多く、修飾の種類によっては実験例が多いとは言えません。そのような場合、幅広い分布が見られまた比較的研究が進んでいる修飾、m6A などを基準に実験することをお勧めします。例えばある RNA 修飾に関して RIP-qPCR を行う場合、m6A が含まれていることが既に知られている領域で同様に RIP-qPCR を行い、これをポジティブ・コントロールとします。




登録