ヒストン修飾ガイド

​​ヒストンは翻訳後修飾を受けて、エピジェネティクスな遺伝子制御に関わっています。

真核生物の DNA は核内においてタンパク質との複合体である「クロマチン(Chromatin)」の状態で存在します。その構成単位はヌクレオソーム(Nucleosome)と呼ばれ、4 種類のヒストン(Histone)タンパク質、ヒストン H2A、ヒストン H2B、ヒストン H3、ヒストン H4 それぞれ 2 つずつから成る 8 量体のコア・ヒストンに、DNA が巻きついた構造を取ります。ヒストン H1 はコア・ヒストンには含まれず、リンカー・ヒストンと呼ばれ、ヌクレオソーム内の DNA を安定させる役割を有します。

ヒストンがメチル化やアセチル化などの化学的な修飾を受けると、クロマチンはその形状が、DNA に転写因子が結合しやすく転写が活発に行われるユークロマチンや、逆に DNA が凝集して転写因子が結合しにくいヘテロクロマチンに変化します。ヒストンの中で最も多くの化学的修飾を受けるのはヒストン H3 で、次いでヒストン H4 です。これらヒストンのメチル化およびアセチル化を多く受ける部位は N 末端で、ヒストン・テールと呼ばれます。

DNA のある領域が転写を受けやすい状態であるのか、転写が抑制された状態であるのか、またゲノム本体であるのか、プロモーターやエンハンサーであるのか、といったことを知るためには、ヒストン H3 やヒストン H4 の修飾の状況を調べることが有用です。

エピジェネティクス・ガイドはこちら(英語)

Figure 1 : 代表的なヒストンの翻訳後修飾。“Epigenetics modifications” ポスターもご参照ください。こちらのページからダウンロードできます。

修飾の有無にかかわらずヒストン H3 と反応する抗体は、ヒストン H3 の修飾を抗体で検出する場合のコントロールとして使用します。アブカムには ChIP やウエスタン・ブロッティングを始めとしたさまざまなアプリケーションで性能試験が行われている、実績豊富な抗体が多数あります。

​​ヒストンのメチル化

ヒストン H3 および H4 のメチル化が転写に与える影響は、そのメチル化を受けるアミノ酸の種類によって異なります。アルギニンのメチル化は転写を活性化します。一方リジンのメチル化の場合は、メチル化を受けるアミノ酸の位置により、転写を活性化する場合と、抑制的に働く場合があります1

リジンのアミノ基は、最大 3 個のメチル基が結合し、結合するメチル基の数により、モノメチル化(mono-methylation)、ジメチル化(di-methylation)、トリメチル化(tri-methylation)と呼ばれ、転写活性化のマーカーとなり得ます。例えばヒストン H3K4(ヒストン H3 タンパク質の N 末端から 4 番目のリジン残基を表します)において、モノメチル化(H3K4me1)は転写エンハンサー領域に、トリメチル化(H3K4me3)は遺伝子プロモーター領域に、それぞれ認められます。また K36 のトリメチル化(H3K36me3)は遺伝子本体の転写領域で認められます。

ヒストン H3 K9 のトリメチル化(H3K9me3)と K27 のトリメチル化(H3K27me3)はいずれも、転写を抑制化します。このうち H3K27me3 は発現の制御をコントロールする一時的なシグナルであり、H3K9me3 は逆に、染色体領域にタンデム・リピート構造を取らせてヘテロクロマチン化する永続的なシグナルです。

ヒストン H3 K27 のトリメチル化(H3K27me3)は、gene-rich 領域のプロモーター領域で認められ、Hox 遺伝子や Sox 遺伝子など、ES 細胞における発現制御と密接に関わっています。ヒストン H3 K9のトリメチル化(H3K9me3)はサテライト・リピート領域、テロメア領域、動原体などの gene-poor 領域で主に検認められます。また、レトロトランスポゾンやジンク・フィンガー遺伝子のあるファミリー(KRAB-ZFP など)でも認められます。

不活化された X 染色体上では、転写の活性化マーカーである H3K9me3 がアクティブな遺伝子をコードしている領域に、抑制マーカーである H3K27me3 が遺伝子間領域およびサイレンス遺伝子領域に、それぞれ認められます。

ヒストンのアセチル化

ヒストンがアセチル化の修飾を受けると、クロマチンと DNA の結合が緩み、転写因子が結合しやすくなり、遺伝子発現が劇的に増加します2

ヒストンのアセチル化はプロモーター領域でよく認められます。例えば、ヒストン H3 K9 のアセチル化(H3K9ac)とK27 のアセチル化(H3K27ac)は、アクティブな遺伝子のエンハンサーおよびプロモーター領域で検出されます。逆に転写遺伝子はアセチル化レベルが低いことが知られていますが、この機能についての詳しくは明らかになっていません。

ヒストン・テールにおけるアセチル化の調節は、ヒストン・アセチルトランスフェラーゼ(Histone acetyltransferase; HAT)とヒストン脱アセチル化酵素(Histone eacetylase; HDAC)によって調節されています。HAT と HDAC は複数知られており、これらの機能と特異性の解析がエピジェネティクス研究の大きなテーマの一つとなっています。

ヒストンのリン酸化

コア・ヒストンのリン酸化は、転写調節、DNA 損傷の修復、細胞分裂時の染色体凝縮などにおける重要なステップです3-5。リン酸化されたヒストンは、アセチル化やメチル化されたヒストンとは異なり、他の修飾ヒストンと相互作用してエフェクター・タンパク質のプラットフォームとなり、シグナル・カスケードを起こす引き金となります。

ヒストン H3 S10(ヒストン H3 タンパク質の N 末端から 10 番目のセリン残基を表します)のリン酸化およびヒストン H2A T120 のリン酸化は、有糸分裂のマーカーで、共にクロマチン凝集や有糸分裂中のクロマチンの機能調節に関わっています。またリン酸化ヒストン H2AX は γH2A.X と呼ばれ、その S139 残基のリン酸化は、DNA 二重らせんが損傷した際に修復タンパク質を集めるマーカーとして機能しています7,8。また、ヒストン H2B のリン酸化が、アポトーシスに関連するクロマチン凝集および DNA 断片化に関わっていることが、近年報告されています9

ユビキチン化

ヒストン H2A と H2B は、よくユビキチン化されており、中でも最もよく見られるのがヒストン H2A K119 のユビキチン化と、ヒストン H2B K123(酵母)/K120(脊椎動物)のユビキチン化です。これらユビキチン化の多くはモノユビキチン化ですが、H2A および H2A.X の K63 のようにポリユビキチン化される場合もあります。

ヒストン H2A はポリコーム群タンパク質によりモノユビキチン化されると、転写の抑制に関わります。一方ヒストン H2B は、酵母では Bre1、哺乳類では Bre1 ホモログである RNF20/RNF40 によりモノユビキチン化されると、H2A とは逆に転写の活性化に関わります。H2A および H2B のモノユビキチン化は、ヒストン・ユビキチン・リガーゼおよび脱ユビキチン化酵素により制御されており、他のヒストン修飾と同様に可逆的です。

DNA が損傷すると、それに応答してヒストンのユビキチン化が起こります。ヒストン H2A/H2A.X の K63 が RNF8/RNF168 によりポリユビキチン化され、これが RAP80 など DNA 修復タンパク質のターゲットとなります。またヒストン H2A、H2B、H2A.X のモノユビキチン化は、DNA 二本鎖切断(double strand-breaks)部位で認められます。

修飾マーカー

ヒストンの修飾は細胞分裂を繰り返しても維持されることから、不可逆的な機構であると長い間考えられてきました。しかしながら近年の研究により、これらは複数の修飾酵素および脱修飾酵素群などの調節因子で制御されている、ダイナミックなプロセスであることが明らかになってきました。これらの調節因子は、次のように writer、reader、eraser の 3 種類に大別されます。

  • Epigenetics writers: ヒストン・アセチルトランスフェラーゼ(Histone acetyltransferases; HATs)、ヒストン・メチルトランスフェラーゼ(Histone methyltransferases; HMTs/KMTs)、タンパク質アルギニン・メチルトランスフェラーゼ(Protein arginine methyltransferases; PRMTs)などの酵素。ヒストンにエピジェネティックな化学修飾を行ないます。
  • Epigenetics readers: Bromodomain、Chromodomain、Tudor などのタンパク質。翻訳後修飾を受けたヒストンを認識して結合し、シグナルを下流に伝えます。
  • Epigenetics erasers: ヒストン脱アセチル化酵素(Histone deacetylases; HDACs)、リジン脱メチル化酵素(Lysine demethylases; KDMs)、脱リン酸化酵素(ホスファターゼ; Pgosphatases)などの酵素。エピジェネティックな翻訳後修飾を未修飾の状態に戻します。

References

1.        Greer, E. L. & Shi, Y. Histone methylation: a dynamic mark in health, disease and inheritance. Nat. Rev. Genet. 13, 343–57 (2012).

2.        Roth, S. Y., Denu, J. M. & Allis, C. D. Histone acetyltransferases. Annu. Rev. Biochem. 70, 81–120 (2001).

3.        Nowak, S. J. & Corces, V. G. Phosphorylation of histone H3: A balancing act between chromosome condensation and transcriptional activation. Trends Genet. 20, 214–220 (2004).

4.        Rossetto, D., Avvakumov, N. & Côté, J. Histone phosphorylation: A chromatin modification involved in diverse nuclear events. Epigenetics 7, 1098–1108 (2012).

5.        Banerjee, T. & Chakravarti, D. A Peek into the Complex Realm of Histone Phosphorylation. Mol. Cell. Biol. 31, 4858–4873 (2011).

6.        Kschonsak, M. & Haering, C. H. Shaping mitotic chromosomes: From classical concepts to molecular mechanisms. BioEssays 755–766 (2015).

7.        Lowndes, N. F. & Toh, G. W.-L. DNA repair: the importance of phosphorylating histone H2AX. Curr. Biol. 15, R99–R102 (2005).

8.        Pinto, D. M. S. & Flaus, A. Structure and function of histone H2AX. Subcell. Biochem. 50, 55–78 (2010).

9.        Füllgrabe, J., Hajji, N. & Joseph, B. Cracking the death code: apoptosis-related histone modifications. Cell Death Differ. 17, 1238–1243 (2010).

10.      Cao, J. & Yan, Q. Histone ubiquitination and deubiquitination in transcription, DNA damage response, and cancer. Front. Oncol. 2, 26 (2012).

登録