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ニューロンにおいてカルシウムは、電荷キャリアと細胞内メッセンジャーという二つの役割を担っています。細胞内メッセンジャーとしては、アポトーシス、神経伝達因子の放出、興奮性伝達などで重要な役割を果たします。またこの他にも数多くの細胞機能のプロセスの調節を行っています。なぜ、細胞内に普遍的に存在するカルシウムが、独立して働いている複数のプロセスを、個々にかつ同時に制御できるのでしょうか? その答えは、カルシウム・シグナルの伝達は神経細胞内で複雑な時間的・空間的なパターンをとり、そのパターンの違いによって異なるプロセスを制御しているところにあります。
カルシウム・シグナル伝達においては受容体やチャネルなど様々なタンパク質因子が関与しています。これら因子に関連する製品を 1 クリックで簡単に検索できるインタラクティブ・パスウェイはこちらです。
膜電位の脱分極によって電位依存性カルシウム・チャネル(VGCCs)が開口すると、ニューロン内へカルシウム・イオンが流入します。VGCCs は複数のサブユニットからなる複合体を形成し、その構造は多様性に富んでいます。その多様性の理由は、サブユニットにより異なった遺伝子にコードされていること、選択的スプライシングが行われていること、様々な組み合わせで複合体を構成することにあります。異なる種類の VGCCs が、それぞれ固有のニューロンの特定の位置に局在し、各々異なった役割を果たしています。
細胞内のカルシウム濃度は平常時、細胞外カルシウム濃度の 1 万分の 1 未満に相当する 100 nM 程度です。バッファーの機能を有する分子の働きや小胞体などへのカルシウム貯蔵により保たれているこの濃度が、VGCCs の開口による電位勾配に従って流入するカルシウム・イオンにより、局所的かつ瞬間的に 100 倍にもなります。この濃度上昇により転写の促進、神経伝達因子の放出、神経突起の伸展、カルモジュリン依存性プロテイン・キナーゼ II(CaMK C(PKC)などのカルシウム依存性酵素の活性化など、様々なプロセスが動き出します。
小胞体(ER)の表面には、イノシトール 3 リン酸受容体(IP3R)やリアノジン受容体(RyR)といった、カルシウム放出チャネルが存在します。小胞体(ER)の機能の一つに、細胞内でのカルシウムの貯蔵があり、そこからのカルシウムの放出は、神経細胞の種類によって発生の異なる段階で起こり、それぞれの細胞内でそれぞれ特異的なシグナル伝達が引き起こされます。例えば IP3R を介するカルシウムの放出は、主にグルタミン酸などの神経伝達因子のシグナルを引き金として起こり、新皮質などのニューロンにおけるカルシウム・ウェーブにおいて重要な役割を果たしています。一方 RyR を介するカルシウムの放出は、活動電位発火による細胞内カルシウム濃度の上昇を引き金として起こり、細胞質内のカルシウム濃度をさらに高めます。ER はこのように細胞外からのカルシウム・シグナルを増幅して維持する、フィードバック・ループ(Feedback loop)を構成します。またどちらの受容体も、カルシウム以外の細胞内因子の影響も受けています。
NMDA 型グルタミン酸受容体は、さまざまなニューロンや皮質に存在する樹状突起棘(スパイン)上のシナプス後細胞におけるカルシウム流入を介在します。この流入はシナプスの長期増強に重要であるとされています。なおこの受容体は共役型グルタミン酸受容体で、非特異的な陽イオン・チャネルであり、カルシウムだけでなくナトリウムやカリウムも透過します。
カルシウム透過性 AMPA 型グルタミン酸受容体もイオン共役型受容体で、スパインがほとんど存在しない GABA作動性ニューロンに局在します。この受容体のうち GluR2 受容体サブユニットを欠失したタイプの受容体は、ナトリウム、カルシウム、カリウムおよび亜鉛などの陽イオンを透過します。また、高頻度の電気刺激(テタヌス刺激)を効率よく伝導できることから、さまざまなシナプス入力に対してニューロンそれぞれが個別に応答することを可能とします。GluR2 受容体サブユニットを欠失したタイプと、GluR2 受容体サブユニットを保持しカルシウム非透過性な「ネイティブ」なタイプの、細胞における存在比は一定ではなく、神経活動への応答の量や頻度に依存して調節されています。これにより細胞におけるカルシウム透過性はダイナミックに変化し、スパインがほとんどないニューロンにおけるシナプス可塑性に寄与しています。
カルシウムが受容体から細胞内に大量に流入すると、興奮性神経細胞死が引き起こされる可能性があります。したがって、カルシウム透過能が高い AMPA 型カルシウム受容体の存在量は、ニューロンの脆弱性の指標となり得ます。
代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)は NMDA 型グルタミン酸受容体やカルシウム透過性 AMPA 型グルタミン酸受容体とは異なり、7 回膜貫通することで知られる G タンパク質結合受容体(GPCR)の一種で、中枢神経系および末梢神経系に広く分布しています。この受容体はグループ I、グループ II、グループ III の 3 種類に分類され、細胞の種類特異的に分布し、さまざまな生理学的な役割を担っています。下流へのシグナル伝達のメカニズムはグループによって異なり、また同じグループであっても受容体のタイプによって異なります。例えばグループ I である mGluR1 はG1 タンパク質に結合してシグナルを伝達し、細胞内カルシウム濃度の上昇と、陽イオン・チャネル TRPC3 依存性の内向き整流を媒介します。mGluR1 が活性化されると、ホスフォリパーゼ C が IP3 産生し、その IP3 が ER 表面上の受容体に結合し、ER からのカルシウム流出を誘導します。一方、同じグループ I である野生型 mGluR5 の機能は、さらに細胞によっても異なります。海馬ニューロンにおいてはシングル・ピークの細胞内カルシウム刺激への応答を誘導し、新皮質ニューロンでは細胞内での反復的なカルシウム濃度上昇(カルシウム・オシレーション)を誘導します。
ニューロンにおけるカルシウム・シグナル伝達の活性化は多くの場合、同時多発的に起こります。したがって単純にニューロン内のカルシウム濃度を測定、イメージングしても、どのシグナル伝達経路によるものかを解析することは困難です。いくつかの手法を並行して行うことをお勧めします。