イオンチャネル型グルタミン酸受容体

イオンチャネル型グルタミン酸受容体(Ionotropic glutamate receptors; iGluRs)は、脳内の興奮性神経伝達の多くを仲介する、リガンド開口型イオンチャネルです。


構造

哺乳類の中枢神経系の主要な興奮性神経伝達物質のひとつである L – グルタミン酸(L-glutamate)の受容体には、イオンチャネル型と代謝型があります。うちイオンチャネル型グルタミン酸受容体は主に中枢神経系のシナプス前細胞および後細胞の膜上に存在し1、AMPA 受容体、NMDA 受容体、カイニン酸受容体の 3 種類のサブファミリーに分類されます。これらは合成アゴニストである AMPA(α-amino-3-hydroxyl-5-methyl-4-isoxazole-propionate)、NMDA(N-methyl-d-aspartate)、カイニン酸(Kainate)への親和性の違いにより分類されました2。またこの他に、遺伝子配列の相同性からデルタ型受容体(Delta receptor)がイオンチャネル型グルタミン酸受容体に分類されていますが、この受容体についてはまだ明らかになっていない点が多いようです3

イオンチャネル型グルタミン酸受容体は、他のリガンド開口型イオンチャネルと同様、 4 つのドメイン、細胞外アミノ末端ドメイン(ATD; Amino-terminal domain)、細胞外リガンド結合ドメイン(LBD; Ligand-binding domain)、4 つの膜貫通ドメイン(TMD; Transmembrane domain)、細胞内カルボキシル末端ドメイン(CTD; Carboxyl-terminal domain)から構成されています。なお TMD の 4 つのドメインのうち 2 番目(TMII)は、実際には膜を貫通してはおらず、膜中でターンする形を取っています(図 1)。

​図 1.イオンチャネル型グルタミン酸受容体の概略図(Traynelis, S. F. et al., 2010 より改変)

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機能

イオンチャネル型グルタミン酸受容体は速い興奮性神経伝達を仲介し、シナプス可塑性および学習・記憶に深く関わっています。グルタミン酸が結合するとイオンチャネルが開き、Na+、K+、Ca2+ などの陽イオンが通過します1,4。すると細胞内に流入した陽イオンにより活動電位が生じます。その後次の活動電位に備えるために興奮性アミノ酸輸送体(Excitatory amino acid transporters; EAAT)が、シナプス間隙からグルタミン酸を取り除いてシグナルを消去します。

イオンチャネル型グルタミン酸受容体が長期に渡り過度な刺激を受け続けると、EAAT によるグルタミン酸の除去がうまくいかなくなり、興奮毒性を引き起こす可能性があります。この興奮毒性は、神経系損傷や神経変性疾患の主要な原因とされています。そのためイオンチャネル型グルタミン酸受容体と EAAT は共に、様々な治療法や薬剤の開発のターゲットになっています5

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AMPA 受容体

​​AMPA 受容体はグリアとニューロンのほとんどのグルタミン酸作動性シナプスにおいて NMDA 受容体と共発現しており、中枢神経系での速い興奮性神経伝達の大部分を担っています6。AMPA 受容体の発現調節はまた、シナプス可塑性の重要なメカニズムの一つでもあります。例えばシナプス後部位で AMPA 受容体が増加すると、活動電位に対する反応も増えます7,8

イオンチャネル型グルタミン酸受容体が通過させる陽イオンの選択性は、基本的にはあまりありませんが、AMPA 受容体の場合構成するサブユニットによっては選択性を持ちます。AMPA 受容体には GluA1、GluA2、GluA3、GluA4 の 4 つのサブユニットがあり、これらがホモあるいはヘテロ 4 量体を形成します。このうち GluA2 サブユニットは Ca2+ 非透過性という選択性を持ち、GluA2 サブサブユニットを含む AMPA 受容体は結果として Ca2+ 非透過性になります。この選択性は、TMII 領域(Q/R 編集領域)にある 1 つのアミノ酸が、GluA1、GluA3、GluA4ではグルタミン(Q)であるのに対し、GluA2 においてはアルギニン(R)に変異していることが原因です。この変異は DNA にコードされているのではなく、転写後 RNA 編集を受けることによって起こります。何らかの理由で RNA 編集を受けなかった GluA2 は、Ca2+ を透過させることが明らかになっています4

中枢神経系の細胞においては、AMPA 受容体を介した多量の Ca2+ の流入が神経細胞死の引き金になったり、筋萎縮性側索硬化症(ALS; Amyotrophic lateral sclerosis)のような神経変性疾患を引き起したりします9。したがって本来 Ca2+ 非透過である GluA2 が Ca2+ 透過性になることが、神経変性疾患の原因のひとつである可能性が示唆されています。

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NMDA 受容体

NMDA 受容体は中枢神経系を中心に生体内に広く分布し、記憶や学習に深く関与していると考えられています。この受容体が活性化するためには、グルタミン酸に加えてグリシン(Glycine)が結合する必要もあり、そのグリシンの結合部位は GluN1 と GluN3 サブユニットに存在します10。NMDA 受容体には陽イオンの選択性はなく、Na+、K+、Ca2+ のいずれも通過させます。

通常の状態において NMDA チャネルは Mg2+ でブロックされて不活化状態にあり、グルタミン酸が結合しても陽イオンは流入しません1,11。このような状態では主に AMPA 受容体がイオンチャネルとして働き、細胞内に陽イオンを通過させ、興奮性シナプス後電位を引き起こしています。強い刺激により膜が脱分極し、膜電位が正になると、NMDA 受容体から Mg2+ が外れます。これにより NMDA 受容体はグルタミン酸に対する反応性を有するようになり、そのチャネルを通じて多量の Ca2+、Na+、K+ を流入させます。このように NMDA 受容体は、強い脱分極刺激とグルタミン酸(およびグリシン)の結合との両方が必要な「分子同時検出器(Molecular coincidence detector)」として機能します12

Ca2+ は複数のシグナル伝達カスケードにおいて二次メッセンジャーとして働くため、NMDA 受容体の活性化によって細胞への Ca2+ 流入量が急激に増加すると、多くの種類のシグナル伝達系に影響を及ぼします。例えばカルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼ II(Calcium/calmodulin-dependent kinase II; CaMKII)の活性化やシナプス膜における AMPA 受容体の発現上昇などで、それらに引き続き、AMPA 受容体 GluA2 サブユニットのリン酸化によって、シナプス増強が長期に渡って続きます5

NMDA 受容体は興奮性と抑制性、両方のニューロンに存在しており、NMDA 受容体の過剰な活性化は、興奮毒性やハンチントン病で見られるような神経細胞死を引き起こす危険があります。またNMDA 受容体の抑制により、統合失調症で見られるような興奮/抑制バランスの阻害が起きる可能性もあります13

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カイニン酸受容体

カイニン酸受容体は多くのアゴニストおよびアンタゴニストが共通であることから、歴史的に AMPA 受容体と合わせて「非 NMDA 受容体(Non-NMDA receptors)」として扱われてきましたが、現在では別のグループとして扱われます14

カイニン酸受容体は中枢神経系に広く存在し、通常 AMPA 受容体および NMDA 受容体と共発現していますが、網膜など一部の領域では単独で存在します。またその活性化には細胞外の Na+ と Cl- を必要とします15,16。この受容体は代謝型グルタミン酸受容体のように、G タンパク質(G-protein)を通じてシグナルを送ることもできます。これは AMPA 受容体や NMDA 受容体にないカイニン酸受容体の特性です。イオンチャネル型のシグナリングは膜の脱分極、シナプス後応答、神経伝達物質放出などに、代謝型のシグナリングは膜興奮性、ニューロンと回路の成熟、神経伝達物質放出などに、それぞれ関与します17

カイニン酸受容体はシナプス後では興奮性シナプス後電流を伝達し、AMPA 受容体や NMDA 受容体と同様に機能しています。シナプス前では興奮性と抑制性の両方のシナプスで神経伝達物質の放出を調節しています14。カイニン酸受容体はまた、シナプス可塑性において重要な役割を果たしており、てんかん、統合失調症、自閉症などの神経疾患にも関わっていることが示唆されていますが、その詳細は不明です17

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References

1.      Purves, D. et al. in Neuroscience (eds. Purves, D. et al.) (Sinauer Associates, 2001).

2.      Alexander, S. P. H. et al. The Concise Guide to Pharmacology 2013/14: Ligand-gated ion channels. Br. J. Pharmacol. 170, 1706–1796 (2013).

3.           Orth, A., Tapken, D. & Hollmann, M. The delta subfamily of glutamate receptors: Characterization of receptor chimeras and mutants. Eur. J. Neurosci. 37, 1620–1630 (2013).

4.           Traynelis, S. F. et al. Glutamate receptor ion channels: structure, regulation, and function. Pharmacol. Rev. 62, 405–496 (2010).

5.           Willard, S. S. & Koochekpour, S. Glutamate, glutamate receptors, and downstream signaling pathways. Int. J. Biol. Sci. 9, 948–959 (2013).

6.      Dingledine, R., Borges, K., Bowie, D. & Traynelis, S. F. The glutamate receptor ion channels. Pharmacol. Rev. 51, 7–61 (1999).

7.           Ju, W. et al. Activity-dependent regulation of dendritic synthesis and trafficking of AMPA receptors. Nat. Neurosci. 7, 244–53 (2004).

8.       Derkach, V. A., Oh, M. C., Guire, E. S. & Soderling, T. R. Regulatory mechanisms of AMPA receptors in synaptic plasticity. Nat. Rev. Neurosci. 8, 101–13 (2007).

9.       Van Den Bosch, L., Vandenberghe, W., Klaassen, H., Van Houtte, E. & Robberecht, W. Ca(2+)-permeable AMPA receptors and selective vulnerability of motor neurons. J. Neurol. Sci. 180, 29–34 (2000).

10.           Yao, Y., Belcher, J., Berger, A. J., Mayer, M. L. & Lau, A. Y. Conformational analysis of NMDA receptor GluN1, GluN2, and GluN3 ligand-binding domains reveals subtype-specific characteristics. Structure 21, 1788–99 (2013).

11.           Johnson, J. W. & Ascher, P. Voltage-dependent block by intracellular Mg2+ of N-methyl-D-aspartate-activated channels. Biophys. J. 57, 1085–90 (1990).

12.           Purves, D., Augustine, G. J. & Fitzpatrick, D. Neuroscience, 4th Edition. Nature Reviews Neuroscience (2008). doi:978-0878937257

13.           Zhou, Q. & Sheng, M. NMDA receptors in nervous system diseases. Neuropharmacology 74, 69–75 (2013).

14.           Lerma, J. Roles and rules of kainate receptors in synaptic transmission. Nat. Rev. Neurosci. 4, 481–495 (2003).

15.           Bowie, D. Ion-dependent gating of kainate receptors. J. Physiol. 588, 67–81 (2010).

16.           Plested, A. J. R. Kainate receptor modulation by sodium and chloride. Adv. Exp. Med. Biol. 717, 93–113 (2011).

17.           Lerma, J. & Marques, J. M. Kainate receptors in health and disease. Neuron 80, 292–311 (2013).


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