ウサギ・モノクローナル抗体からその先へ

Nature 誌の InsideView に掲載された、アブカムのシニア・バイス・プレジデントである Weimin Zhu への RabMAb® プラットフォームに関するインタビューです。


アブカム(Abcam)は1998年に設立され、世界中の研究者に抗体やアッセイ・キットなどの高品質な製品を提供しています。そして変化し続ける研究者からの要望に応えるため、新しい技術の開発および導入に多大な投資を行っています。

Weimin Zhu がアブカムのウサギ・モノクローナル抗体 RabMAb® の開発に成功したのは、10年以上前のことですが、彼は今なおアブカムで、製品の開発および技術の革新に関して重要な役割を担っています。そしてこの RabMAb は現在研究分野だけでなく、診断や治療の分野でも世界中で使われています。


Q: RabMAb はライフサイエンスの研究においてどのような恩恵をもたらしましたか? そして現在、どれくらいの数の製品が世に出ていますか?

従来モノクローナル抗体の多くはマウス由来でした。しかしながらマウス B 細胞の抗体産生能には限界があり、必要とする抗体が必ず得られるというわけではありませんでした。その限界を乗り越えるために、私と共同研究者たちはウサギを用いたモノクローナル抗体の作製に挑みました。

RabMAb の基本的な作製法はマウス・モノクローナル抗体とほぼ同様である一方、得られるRabMAb は多様性、親和性、特異性といった点でマウス・モノクローナル抗体よりもはるかに優れています。このような抗体の特性は、長期間に渡る、あるいは大スケールでの研究プロジェクトでは欠かせないものです。

現在アブカムがラインアップしている RabMAb は9,000製品以上に上ります。またアブカムはRabMAb の受託作製サービスも行っていますが、その実績は700件以上です。こうした中から275を超える RabMAb が IVD (体外診断用医薬品)認可された免疫組織染色用抗体として販売されています。

抗 Bcl-XL リコンビナント・ウサギ・モノクローナル抗体(ab178844)を用い、様々なサンプルに対してウエスタン・ブロッティング(左図)。右図は、これまでよく使われた競合他社のウサギ・ポリクローナル抗体で同じ実験をしたもの。



Q: そもそもなぜ、抗体を作製するのにウサギを用いたのですか?

ウサギの免疫系はユニークで、その B 細胞レパートリーは極めて多彩であり、他の動物種では抗体を作りにくい免疫原性が低い抗原でも抗体を作り出すことができます。またウサギ由来の抗体は、マウスやラットなどの動物種由来の動物種と比較して親和性が高いのも特長で、RabMAb はマウス・モノクローナル抗体よりも平均して10倍から100倍高い親和性を有します。

さらに多彩な B 細胞レパートリーがあることによって、修飾、ミューテーション、立体構造変化といった、エピトープのほんのわずかな違いを識別することができるような抗体を作製することにも向いています。結果としてウサギ・モノクローナル抗体 RabMAb はウサギ由来抗体の特性と、モノクローナル抗体の安定性を兼ね備えた、研究に最適な次のような抗体になりました。

  • 多様なエピトープ認識能がある
  • 高い親和性と特異性を有する
  • 実験動物として一般的なマウスやラット由来サンプルに強く反応する(基礎研究と前臨床研究で同じ抗体を使用できる)
  • ロット間差が小さい(リコンビナント抗体であればさらに)



Q: 抗体を用いて実験をする研究者にとって抗体の品質は大きな問題であると思いますか?

はい、間違いなく大きな問題です。ポリクローナル抗体は、アプリケーションによっては未だに重要な役割を担っていることは認めますが、大きなロット間差が生ずる危険性は常にあり、継続的な研究で問題となる可能性があります。また、たとえモノクローナル抗体であっても、抗体を産生するハイブリドーマ細胞の遺伝子の変異や欠落などによって、ロット間差が生ずる可能性があります。

私は抗体の品質の問題には再現性と特異性、二つがあると考えています。私たちが RabMAb 製品の開発を行うに当たっては、この両方の問題を解決できるよう取り組んできました。

再現性に関する取り組みとして、現在販売している RabMAb の多くをリコンビナント抗体としました。抗体産生細胞をハイブリドーマではなくリコンビナント抗体遺伝子を組み込んだ細胞とすることにより、抗体の製造プロセスのコントロールが容易になりまた、ロット間差をほとんどなくすことができるようになりました。また、最近アブカム・グループの一員となった AxioMx 社のファージ・ディスプレイをベースとした in vitro 抗体作製技術は RabMAb の技術を補完し、これまで数ヶ月かかっていたモノクローナル抗体の樹立を大幅に短縮し、さらには産生における安定性の向上にも寄与すると考えています。

特異性に関する取り組みとしては、反応性の確認を詳細に行っています。例えば製造したすべての RabMAb について、最低5つのアプリケーション(ウエスタン・ブロッティング、免疫組織染色、免疫細胞染色/蛍光染色、免疫沈降、フローサイトメトリー)と、3種類の動物種(ヒト、マウス、ラット)で反応性の検証を行い、問題がないという確認を取っています。それに加え抗体が、そのターゲット・タンパク質を CRISPR/Cas9 技術でノックアウトした細胞とは反応しないことを確認する、「KO 検証」にも取り組んでいます*。この方法で検証された抗体は、これまでの市販抗体よりも一段高いレベルでの品質保証を得ていると言えます。

* アブカムの「KO 検証」は Horizon Discovery 社のノックアウト細胞株を用いて行なわれています。


Q: ウサギを用いることによる欠点はありますか?

ウサギ由来の抗体の親和性はマウス由来の抗体と比べて10倍から100倍高いですが、逆に産生される抗体の量は、ウサギ B 細胞由来のハイブリドーマはマウス B 細胞由来ハイブリドーマの10分の1から100分の1程度でした。

しかしながら2005年にリコンビナント RabMAb 抗体の産生に成功して以来、この問題は解決されたと考えています。



Q: RabMAb の品質と作製技術をさらに高めるために、現在取り組んでいることはありますか?

私は現在米国カリフォルニア州バーリンゲームで技術チームを率いています。現在取り組んでいることの一つは、ターゲット・タンパク質上の異なるエピトープを認識する多数のモノクローナル抗体セットの開発です。診断や治療で使用するために最も優れた抗体とそのエピトープを探し出すことは、宝くじの1等賞に当たるようなものです。そのためにはできるだけ多数の候補を用意しておく必要があり、最適な免疫原配列の推定と免疫法の戦略立案が不可欠です。

ただし抗体の候補がどれだけあっても、最適なスクリーニング法がなくては意味がありません。アブカムはスクリーニングの過程において、次世代シークエンサー(NGS)の活用を始めました。これまで樹立された抗体の遺伝子をデータ化し、独自のアルゴリズムを元にした解析を行なうことで、これまで以上に高い確率で真に優れた抗体を選び出すことができると、私たちは信じています。


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