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NTRK融合がんの診断に免疫組織染色(IHC)を用いることについて、オレゴン健康科学大学の小児病理学者であるジェシカ・L・デイビス(Jessica L Davis)医師に話を伺いました。
がんに関して言えば、「治癒」、そして、そのための治療探索に、大きな関心が寄せられるのは当然のことです。しかし、それ以前にまず、がんを的確に検出できる必要があります。
オレゴン健康科学大学の小児病理学者であるジェシカL.デイビス医師は、IHCを用いた小児NTRK融合がんの迅速かつ効率的な診断に関する研究を先導してこられました。
神経系において、トロポミオシン(もしくはチロシン)受容体キナーゼ(Trk)ファミリーのメンバーは神経栄養因子(ニューロトロフィン)に結合し、神経分化と生存の両方に影響を及ぼすという重要な役割を果たします。神経栄養因子キナーゼ受容体NTRK1/NTRK2/NTRK3遺伝子は、それぞれタンパク質TrkA/TrkB/TrkCをコードします。
一部の人々において、NTRK遺伝子と、まったく別の遺伝子の融合が起きると、Trkシグナル伝達が制御されなくなって、がんにつながります。
大部分のがんの中ではNTRK融合は稀であり、一般的ながんの約0.5〜1%で発生します。しかし、分泌性乳がんや乳児性線維肉腫のような希少がんでは高頻度にみられます(~90%またはそれ以上)。1
この型の遺伝子融合は、特に小児がんに多くみられます。例えば、小児非脳幹神経膠芽腫でドライバー変異である事象のうち、ほぼ半分を、NTRK遺伝子融合が占めます。2
幸いにもTrk阻害薬という、NTRK融合によるがんの治療選択肢が出てきました。一般名larotrectinib (商品名VITRAKVI。ロクソ・オンコロジー社とバイエル薬品の共同開発)、および、最近、米国FDAより承認申請の優先審査項目に指定された一般名エントレクチニブ(ロシュ社のジェネンテック社)などの治療選択肢が、臨床医に与えられています。
しかしながら、患者さんがこれらの治療の適格条件を満たすには、そのがんがNTRK遺伝子融合を有していること、なおかつ、抵抗性となる既知の変異をまだ獲得していないことが求められます。まだ現時点ではFDA承認済みのNTRK遺伝子融合の検査法はありません。つまり、おのおのの施設の検査室でそれを行うしかありません。
次世代シーケンサー(NGS)による変異解析:強力だが遅い
小児がんは、とりわけ痛々しく、生命を脅かす可能性があります。しかし、幼い患者さんが手術を受ける必要性は、新薬のおかげで減少すると考えられます。
そのためには正確で、早い診断が、治療に入るうえで不可欠です。 NGSやRT-PCRのような分子遺伝学的検査法は、NTRK遺伝子をより網羅的に解析できますが、高額で時間もかかります。――これは潜在的に治療を遅らせる要因になります。4
「がんが急速に進行している小児がいる場合、臨床医と腫瘍医はすぐに行動を起こす必要があります。しかし、NGSの結果は最大2週間かかることがあります。」
さらにシーケンス法では、小児間葉腫瘍の一部の患者さんで、がんの再発時に起きている、新規のNTRK遺伝子再構成を見逃すことがあるのも問題です。4
デイビス医師の研究室では、ヒトTrkA、TrkB、およびTrkCタンパク質を標的と定めて、抗TrkAモノクローナル抗体クローンEP1058Y(アブカム)および抗pan-Trkモノクローナル抗体クローンEPR17341(アブカム)を使用しております。4
これらのTrk抗体をIHCに使用したとき、小児間葉腫瘍におけるNTRK融合遺伝子を反映するマーカーとなり得るかどうかをみる実験を始めました。
ほんの一握りの施設でのみ行われるNGSとは異なり、IHCはほとんどの病理検査室で運用され、当日中に結果を出すことができます。
長い間、乳児型線維肉腫を診断するアッセイの主力として、RT-PCRおよび蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)が用いられてきました。しかし、これらの方法では同定されなかったETV6-NTRK3融合遺伝子が、後に、NGSによって4症例から見つかりました。
そして、NGSは利用可能な最も網羅的な解析ですが、比較的高額な費用をすべての医療保険会社がカバーするわけではなく、また、完了までに数週間かかることがあり、その上、比較的大きな組織量を必要とします。
これらの分子遺伝学的検査法と比較して、IHCはどうでしょうか。デイビス医師の研究室ではNTRK融合遺伝子を持つ組織片、数十個の検査を行いました。
Pan-TrkのIHCは、検査した79例中、感度 96.7%、特異度 97.9%、陽性適中率 96.67%、陰性適中率 97.9%でした。TrkAのIHCは、76例中、感度100%、特異度63.3%、陽性適中率59.1%、陰性適中率100%でした。
Pan-TrKおよびTrkAのIHCは、NTRK1もしくはNTRK2遺伝子再構成において細胞質のみが染まり、一方NTRK3遺伝子再構成においては細胞質と、核が染まる/染まらないものがありました。
またNTRK1もしくはNTRK2遺伝子再構成と比べて、NTRK3遺伝子再構成は、概ね弱く染まりました。これらのことからデイビス医師はpan-TrkのIHCは優れた方法であると述べられております。
「得られるデータ量はNGSを用いた場合の方がわずかに多く、例えば融合相手遺伝子を特定することができます。 一方でIHCは何といっても迅速であり、一部の症例では、この速さこそが有益となります。鍵となるのは時間なのです。」
さらなる研究で、小児がんのような特定の前兆におけるNTRK融合と、新規のNTRK遺伝子再構成の翻訳がどこで発生したかを特定するために、IHCの感度と特異性が実証されています。しかし少なくとも現時点では、NTRK遺伝子再構成を示唆するが、IHC染色が弱い、または陰性であるといった変則的な症例を検出するためには、NGSが必須です。5-7
デイビス医師は、小児間葉腫瘍の症例において、これらの検査手法を相互補完的に利用するようベストプラクティスとコモンセンスなアプローチを提案しています。NGSをすべての腫瘍に使用することはできないが、IHCは不完全ではあるものの、非常に便利で迅速であり、費用対効果が高く、組織をむだにしない。デイビス医師はIHCをスクリーニングツールとして使用することを提案しています。このような状況においては、pan-Trk IHCを代替マーカーとして使用し、細胞質の中等度から強度のびまん性染色を確認することでNTRK1またはNTRK2遺伝子融合を、さらにpan-Trkの核染色を確認することでNTRK3遺伝子融合を検出することができる可能性があります。pan-Trk IHCを用いても細胞質の染色が弱い場合は、NGSでNTRK融合を検証し、Trk阻害薬で治療を実施するための患者さんの適格性を確認することが最善です。
デイビス医師の提示したアルゴリズムでpan-TrkのIHCは、NTRK遺伝子再構成を検出するための、極めて迅速かつ効率的なスクリーニングツールとなる可能性を秘めています。
「残念ながら多くの施設において、NGSをすべての腫瘍には使用できないのが現状です。そのような場合に、IHCはスクリーニングツールとして極めて重要な価値を発揮します。」
IHCを診断ツールとして用いるというアイデアに、製薬会社の注目が集まっています。実際に、ロシュ社は初の体外診断用医薬品(IVD)pan-TRK免疫組織化学アッセイを最近発売しました。ロシュ社のVENTANA pan-TRK(EPR17341)アッセイのような体外診断用医薬品によって、将来的にはNGSの診断を持たずに、患者さんの治療をすぐに開始できるようになる可能性があります。
デイビス医師のような研究者や病理学者は、IHCが現実の診断法として承認されることを期待し、すでに製薬会社ならびに規制当局との協議を開始しています。 この試みが始まって間もない今、デイビス医師は本研究への大きな期待を胸に、NTRK遺伝子融合のより良い検出に向けた取り組みを続けています。
「この遺伝子融合が一体何なのかという疑問から始まり、それを検出できるところまでたどり着きました。腫瘍治療の分野において、Trk阻害薬は近年稀にみる画期的な進歩です。」
今回の小児NTRK融合がんへの関心の高まりがきっかけとなり、より良い検出ツール、特にNTRK3遺伝子再構成を対象とした検出ツールの開発が進められ、改良されたスクリーニングアルゴリズムの活用促進につながることが願われます。本研究の臨床への橋渡しには、ライフサイエンス企業、病理学者、製薬会社、診断開発企業、FDA、臨床医の間でのコラボレーションが不可欠です。このような進歩が、極めて重要な診断に至るまでの時間短縮、そして最終的には患者さんへの治療効果までの時間短縮につながります。