PKC シグナル・パスウェイ

PKC は、細胞増殖や細胞死、遺伝子の転写および翻訳、細胞の形態、細胞間接触など、多くの細胞機能の制御に関わるタンパク質です。


PKC(Protein kinase C)は、基質タンパク質のセリン残基およびスレオニン残基のヒドロキシル基をリン酸化するタンパク質キナーゼの一種であり、少なくとも 10 種類以上のアイソザイムが存在し、大きなファミリーを形成しています。アイソザイムはその構造、活性化の機序、生理活性によって在来型(Classical)、新型(Novel)、非典型(Atypical)の 3 種類のサブファミリーに分類されます。PKC の機能制御のパスウェイの概要を、図 1 にまとめました。

図1:PKC シグナル・パスウェイとその制御。Jeong-Hun Kang (2014) を元に作成。


PKC シグナル

他のタンパク質キナーゼと同様、PKC も触媒領域(Catalytic domain)と調節領域(Regulatory region)を有しています。触媒領域は C 末端側に存在し、基質タンパク質上のリン酸化残基を認識する配列と、ATP/Mg2+ 結合する配列から構成されます。一方調節領域は N 末端側に存在し、C1 と C2 ドメインから構成されます。PKC は不活化状態では調節領域が触媒領域と結合しており、活性化されるためには触媒ドメインから調節領域が外れる必要があります。

在来型 PKC アイソザイム(α、βI、βII、γ)はその活性化のために、ジアシルグリセロール(Diacylglycerol; DAG)と Ca2+ を必要とします。DAG は、ホスファチジルイノシトール 4,5-二リン酸(PIP2)がホスフォリパーゼ C(PLC)により加水分解されることによって、イノシトール 1,4,5-三リン酸(IP3)と共に生じます。IP3 が細胞内で拡散し、小胞体上にある IP3 感受性 Ca2+ チャネルに結合すると、Ca2+ イオンが細胞質に放出されます。これらの Ca2+ イオンが PKC と結合することで PKC は細胞膜へと移動します。そこで PKC は C1 ドメインを介し DAG と相互作用します。すると PKC は、その触媒ドメインから調節領域が外れるような構造変化を起こして活性型となります。

新型 PKC アイソザイム(δ、ε、θ、η)は DAG のみによって活性化されます。これは、新型 PKC アイソザイムが有する C1 ドメインの DAG に対するアフィニティーが、在来型のものより極めて高いことに起因しています。

非典型 PKC アイソザイム(ζ、Mζ、ι/λ)は、その活性化に DAG も Ca2+ も必要とせず、様々な脂質代謝産物のセカンド・メッセンジャーによって活性化されます(Khalil, 2010; Wu-Zhang and Newton, 2013; Mochly-Rosen et al., 2012)。


PKC とがん

PKC は血管新生や細胞増殖など、多くの細胞機能において重要な役割を果たしているため、その発現レベルが様々ながんにおいて多大な影響を与えていると考えられます。PKC は変異により細胞をがん化させる、いわゆるがん遺伝子産物であるとは考えられていませんが、PKC の活性化が細胞内のさまざまなシグナル伝達を増加させ、がん細胞の増殖につながることがあるということは、確かなようです(Mochly-Rosen et al., 2012)。例えば前立腺癌細胞を用いた血管新生モデルにおいて、PKCδ が NADPH オキシダーゼに結合し活性化することで大量の活性酸素(ROS)を発生させ、HIF-1α や VEGF の発現レベルが上昇し、血管新生が促進されることが示されています(Kim et al., 2011)。このような事実から、PKC をターゲットにしたがん治療もさまざまに考えられていますが、PKC には多くのアイソザイムが存在し、またその機能もさまざまであるため、アイソザイムそれぞれの制御メカニズムを深く理解することが必要になると思われます。


​​参考文献

  • Jeong-Hun Kang (2014). Protein Kinase C (PKC) Isozymes and Cancer: New Journal of Science. 2014 May 1; Article ID 231418: 36 pages. 
  • Khalil RA (2010) Regulation of Vascular Smooth Muscle Function.San Rafael (CA): Morgan & Claypool Life Sciences.
  • Kim J, Koyanagi T, Mochly-Rosen D (2011) PKCδ activation mediates angiogenesis via NADPH oxidase activity in PC-3 prostate cancer cells. Prostate. 2011 Jun 15;71(9):946-54.
  • Mochly-Rosen D, Das K, Grimes KV (2012) Protein kinase C, an elusive therapeutic target? Nat Rev Drug Discov. 2012 Dec;11(12):937-57.
  • Wu-Zhang AX, Newton AC. (2013) Protein kinase C pharmacology: refining the toolbox. Biochem J. 2013 Jun 1;452(2):195-209.
登録