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サイクリン(Cyclin)は、サイクリン依存性キナーゼ(Cyclin dependent kinase; CDK)に結合し、これを活性化する補助因子です。サイクリンは A2、B1、D1 など 20 種類程度、CDK は 1、2、4 など数種類がそれぞれ知られており、それらの発現と、結合の組み合わせで細胞周期の進行を制御しています。
サイクリンのうち D 型サイクリンは、各種分裂促進因子(マイトジェン)などの刺激に呼応して発現し、CDK4 または CDK6 と結合します。そしてその Cyclin D-CDK4/6 複合体はターゲット・タンパク質をリン酸化し、細胞周期を G1 から S へと移行させます(Malumbres & Barbacid, 2009)。
Cyclin D1、D2、D3
D 型サイクリンには Cyclin D1、Cyclin D2、Cyclin D3 の 3種類が存在します。3 種類の D 型サイクリン全てが CDK への結合を仲介するサイクリン・ボックス・ドメインを有しています。また D 型サイクリンの全てについて、N 末端側に RB(Retinoblastoma tumor suppressor protein)結合ドメインが、C 末端側には自身のリン酸化を通じてサイクリンを分解へと導く極めて重要なスレオニン残基を含む PEST ドメインが、それぞれ存在しています。ただし Cyclin D1 のアイソフォームである Cyclin D1b は、選択的スプライシングによりこの C 末端側を欠損しています(Musgrove et al., 2011)。
Cyclin D-CDK4/6 複合体のターゲット
Cyclin D-CDK4/6 複合体がリン酸化するターゲット・タンパク質の一つである RB は、細胞分裂が静止している状態においては転写因子 E2F 結合し、その転写活性を抑制しています。RB が Cyclin D-CDK4/6 複合体によってリン酸化されると、E2F が転写活性能を持つようになり、Cyclin E など S 期に移行するのに必要なタンパク質の発現を誘導し、結果として細胞は S 期へと進みます。
D 型サイクリンの CDK 活性化以外の役割
D 型サイクリンは上記のような作用以外に、CDK インヒビターの機能抑制も行ないます。またクロマチン修飾、細胞遊走、DNA 傷害応答、核内ホルモン受容体などにも関わっているとされています(Musgrove et al., 2011)。
マウスで 3 種類の D 型サイクリンをそれぞれノックアウトした場合、表現型の違いはわずかです。このことから、各 D 型サイクリンの存在はすべての細胞で必須というわけではなく、ある特定の細胞種で特異的な役割を果たしているのではないかと考えられます(Choi & Anders, 2014)。
D 型サイクリンとがん
がん細胞の特徴一つのとして細胞周期の異常が挙げられます。そのようなヒトのがんにおいて Cyclin D-CDK4/6 の制御で異常が認められるという多くの報告があります。そしてそうした知見を元にして、いくつかの CDK4/6 インヒビターががんの治療薬として開発され、実際に臨床試験に進んでいるものもあります(Choi & Anders, 2014)。
Cyclin D1 とがん
Notch1 誘導 T 細胞性急性リンパ芽球白血病では Cyclin D3 が関与しているという報告がありますが(Malumbres, 2012)、多くのヒトのがんで関与しているとされている D 型サイクリンは Cyclin D1 です。多くのがん、特に乳癌において、遺伝子座の変化や転写シグナルの異常による過剰発現や、タンパク質分解機構の失調などによって Cyclin D1 が増加します。これにより Cyclin D1-CDK4/6 の活性化が持続し、がん細胞の細胞周期を継続的に回転させる力となり、アポトーシス誘導の阻止へとつながると考えられています。
現に Cyclin D1 ノックアウト・マウスに腫瘍を移植した実験で、Cyclin D1 が細胞の老化やアポトーシスを防ぎ、移植腫瘍の維持に関わっていることが示されています(Choi et al., 2012)。また Cyclin D1 遺伝子のノックアウトが、乳癌関連のがん遺伝子 Erb-B2に誘導される癌化を阻害するという報告もあります(Yu et al., 2001)。しかしその後の研究で、Cyclin D1 のみの欠損ではその機能が、相補的に発現が促進される Cyclin D3 によって補われるため、Erb-B2 に誘導される癌化を完全に阻害するには不十分であるということも明らかになっています(Zhang et al., 2014)。
このように D 型サイクリンに着目したがんの治療法の開発はいろいろな方向から進められていますが、達成できているとは言えません。さらなる研究が必要です。