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タウ・タンパク質とアルツハイマー病

アルツハイマー病患者の脳では、異常にリン酸化された神経軸策内のタウ・タンパク質が樹状突起スパインへ転移し、神経変性が引き起こされています。


機能

タウ・タンパク質(Tau protein)は中枢神経系および末梢神経系の神経細胞(ニューロン)やグリア細胞に発現しているタンパク質で、微小管結合タンパク質(Microtubule-associated protein; MAP)の一種として発見され、微小管の重合や安定化を調節しています2,3。また微小管以外にもさまざまなタンパク質と結合しており、生後の脳の成熟、軸策輸送およびそのシグナル伝達の調節、熱ストレスに対する細胞応答、成体での神経発生など、脳神経系で起こるさまざまな現象に関わっています。このタウ・タンパク質の異常は、アルツハイマー病などの神経変性疾患の原因となると考えられています1,4

構造

タウ・タンパク質はその機能から、 N 末端近傍領域、プロリン・リッチ領域(Proline-rich domain; PRD)、微小管結合領域(Microtubule-binding domain; MBD)、C 末端近傍領域の 4 つの領域に分けられます5。ヒトのタウ・タンパク質遺伝子(MAPT)は 16 のエクソン領域を有し、エクソン 2、3、10 が選択的スプライシングされ、6 種類のアイソフォームがあります(Figure 1)。

タウ・タンパク質のリン酸化は細胞骨格構造の維持に重要ですが6,7、そのリン酸化の異常がアルツハイマー病に関与しています。タウ・タンパク質のリン酸化部位はセリン、スレオニン、チロシン、合わせて 85 箇所ありますが、そのうち 45 箇所程度が異常リン酸化に関連していると考えられます6,8

なおタウ・タンパク質はリン酸化以外にも、グリコシル化、トランケーション、ニトロ化、酸化、重合化、ユビキチン化、SUMO 化、凝集などさまざまな翻訳後修飾を受けます9


Figure 1. タウ・タンパク質には選択的スプライシングにより、352~441 アミノ酸長となる 6 種類のアイソフォームが存在し、それぞれのアイソフォームは N 末端近傍領域と微小管結合領域(MBD)が異なります。N 末端近傍領域には N1 と N2 という 2 種類のインサートがあり、タウ遺伝子のエクソン 2 および 3 のそれぞれにコードされています。選択的スプライシングによりエクソン 2 および 3 の両方が欠損すると 0N 型、エクソン 2 のみがある場合は 1N 型、エクソン 2 および 3 の両方がある場合は 2N 型のアイソフォームとなります。微小管結合領域は R1~R4 で表される 4 つの領域に分類され、そのうちエクソン 10 にコードされている R2 の有無で 4R 型もしくは 3R 型のアイソフォームとなります。



アルツハイマー病への関与

認知症の代表的な疾患であるアルツハイマー病患者の脳神経組織における顕著な特徴は、細胞外のアミロイド β(Amyloid β;Aβ)によるプラーク形成(Aβ 斑または老人斑)と、細胞内の異常リン酸化されたタウ・タンパク質による神経原線維変化(Neurofibrillary tangles;NFTs)です10。Aβ 斑と NFTs はいずれも、不溶性で高密度に繊維化したタンパク質の凝集です。アルツハイマー病ではこれら蓄積したタンパク質が神経細胞にダメージを与え、細胞死を引き起こします11。その経路は次のようなものであると考えられています。

細胞内の可溶性 Aβ が増加するとタウ・タンパク質の異常リン酸化が誘導され、微小管から可溶性の単量体タウ・タンパク質が遊離します6,12。遊離したタウ・タンパク質は軸策から神経細胞の細胞体樹状突起部分に移動し12、Src チロシンキナーゼである fyn と相互作用し、fyn を樹状突起に局在させます13。高濃度となった fyn は活性化して興奮性 NMDA 受容体 GluN2B をリン酸化し、安定化します。これによりグルタミン酸シグナル伝達が増幅され、細胞内への Ca2+ 流入量が増加し、Aβ の毒性が増加します11,13,14。カルシウム誘導型の興奮毒性はシナプス後部にダメージを与え、ミトコンドリアの Ca2+ 過負荷、膜の脱分極、酸化ストレス、アポトーシスなどを誘導します7,11,15,16

Aβ 斑や NFTs はプリオンのように、異常なタンパク質から正常なタンパク質へと異常性が伝播しますが、これには細胞外小胞が関係するとされています17,18

アルツハイマー病の治療はさまざまな方法が試みられていますが、その中でタウ・タンパク質に着目したものとして、樹状突起の fyn やタウ・タンパク質の局在を減少させ、Aβ やタウ・タンパク質の増加で誘導される NMDA 受容体の活性化を防ぐ方法があります19,20



参考文献

1. Ballatore, C., Lee, V. M.-Y. & Trojanowski, J. Q. Tau-mediated neurodegeneration in Alzheimer’s disease and related disorders. Nat. Rev. Neurosci. 8, 663–672 (2007).

2. Gu, Y., Oyama, F. & Ihara, Y. Tau is widely expressed in rat tissues. J. Neurochem. 67, 1235–1244 (1996).

3. Trojanowski, J. Q., Schuck, T., Schmidt, M. L. & Lee, V. M. Distribution of tau proteins in the normal human central and peripheral nervous system. J Histochem Cytochem 37, 209–215 (1989).

4. Morris, M., Maeda, S., Vossel, K. & Mucke, L. The Many Faces of Tau. Neuron 70, 410–426 (2011).

5. Mandelkow, E. M. et al. Structure, microtubule interactions, and phosphorylation of tau protein. Ann. N. Y. Acad. Sci. 777, 96–106 (1996).

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8. Gong, C.-X. & Iqbal, K. Hyperphosphorylation of microtubule-associated protein tau: a promising therapeutic target for Alzheimer disease. Curr. Med. Chem. 15, 2321–8 (2008).

9. Martin, L., Latypova, X. & Terro, F. Post-translational modifications of tau protein: Implications for Alzheimer’s disease. Neurochem. Int. 58, 458–471 (2011).

10. Tanzi, R. E. & Bertram, L. Twenty Years of the Alzheimer’s Disease Amyloid Hypothesis: A Genetic Perspective. Cell 120, 545–555 (2005).

11. Bloom, G. S. Amyloid-β and tau: the trigger and bullet in Alzheimer disease pathogenesis. JAMA Neurol. 71, 505–8 (2014).

12. Zempel, H., Thies, E., Mandelkow, E. & Mandelkow, E.-M. Abeta Oligomers Cause Localized Ca2+ Elevation, Missorting of Endogenous Tau into Dendrites, Tau Phosphorylation, and Destruction of Microtubules and Spines. J. Neurosci. 30, 11938–11950 (2010).

13. Haass, C. & Mandelkow, E. Fyn-tau-amyloid: a toxic triad. Cell 142, 356–8 (2010).

14. Ittner, L. M. et al. Dendritic function of tau mediates amyloid-beta toxicity in Alzheimer’s disease mouse models. Cell 142, 387–397 (2010).

15. Alberdi, E. et al. Amyloid beta oligomers induce Ca2+ dysregulation and neuronal death through activation of ionotropic glutamate receptors. Cell Calcium 47, 264–72 (2010).

16. Bieschke, J. et al. Small-molecule conversion of toxic oligomers to nontoxic β-sheet-rich amyloid fibrils. Nat. Chem. Biol. 8, 93–101 (2012).

17. Vingtdeux, V., Sergeant, N. & Buée, L. Potential contribution of exosomes to the prion-like propagation of lesions in Alzheimer’s disease. Front. Physiol. 3, 229 (2012).

18. Frost, B. & Diamond, M. I. Prion-like mechanisms in neurodegenerative diseases. Nat. Rev. Neurosci. 11, 155–159 (2010).

19. Nygaard, H. B., van Dyck, C. H. & Strittmatter, S. M. Fyn kinase inhibition as a novel therapy for Alzheimer’s disease. Alzheimers. Res. Ther. 6, 8 (2014).

20. Murray, M. E. et al. Clinicopathologic and 11C-Pittsburgh compound B implications of Thal amyloid phase across the Alzheimer’s disease spectrum. Brain 138, 1370–81 (2015).