抗体、氷入りバケツ、そして羊のモリー ~ アブカム創業に秘められた物語

アブカム創業のアイデアは、1998 年のはじめにケンブリッジ大学のとある研究室で生まれました。創業者のジョナサン・ミルナーは、当時ケンブリッジ大学のトニー・コウザリデス教授のもとでポスドクをしており、新規に発見された乳癌関連タンパク質 BRCA2 についての研究を行っていました。ジョナサンの関わるプロジェクトはなかなか進んでいませんでした。どうしても良い抗体が見つからなかったのです。出来ること、出来ないことが正直に書かれ、正確かつ最新の情報が得られる、品質のよい抗体は、どうやったら手に入れられるのだろうか? まったくもって、もどかしい問題でした。そんな中、ジョナサンとほかの多くの研究室メンバーはアイデアを出し合い、ついには自分たちで、インターネットベースで抗体を供給する会社をつくることにしたのです。そう、「研究者の研究者による研究者のための抗体会社」です。トニー・コウザライド教授が抗体 (antibody) の ab とケンブリッジ (Cambridge) のcamをつなぎ合わせて「Abcam」という社名を考えました。アブカムの経営理念は、「世界最高の抗体に、世界で最も詳しくて正直に書かれた最新のデータシートをつけて、素早く配達し、親切丁寧なカスタマー・サポートとテクニカル・サポートをつけること」です。これはなかなか大変なことだったのです!

幸運は早速訪れました! ジョナサンがケンブリッジ・テレコムを起業したデイビッド・クリーブリー博士に会いに行き、自分たちのアイデアを話したところ、賢いデイビッドは(一部ではバカ!と言われたそうですが…)、なんとアブカムの起業に参加すると言ったのです。そんな訳で、1998 年の夏には、ジョナサンはアカデミックの世界を離れ、フルタイムでアブカムの仕事を始めることになりました。ジョナサンは当時を振り返って、「あれは僕の人生で最も不安な時期だった」と言っています。当初アブカムには、デイビッドや、ジョナサンの家族、友人たち、それにジョナサン自身が出し合った少ないお金しかありませんでした(ジョナサンはお金を捻出するために自分の家を再抵当に入れていました。本当に理解のある良い奥さんを持ったものです!)。理念を実現できるようなウェブサイトを作ったり、アブカム独自の抗体を増やしたりするためには、もっと多くのお金が必要でした。ベンチャー・キャピタルに出資してもらうため、立派なビジネスプランを書いて自信満々で説得に出かけたりしましたが、なかなかうまく行きませんでした。創業から二年間は、アブカムの理想に燃えた経営理念とその実現性をベンチャー・キャピタルに納得してもらえず、アブカムにとって本当に厳しく辛い時期が続きました。

全てがお先真っ暗な状態で、アブカムはどうにかしてすぐにでも、何らかの売り上げをあげる必要がありました。ジョナサンは抗体がいっぱい詰まった氷入りのバケツを持ってケンブリッジ大学の研究室をまわり、友達やかつての同僚に抗体を買ってもらいました(当時の皆さん、本当にありがとう!)。こうして一つの氷入りバケツから、アブカムのつつましいスタートが切られたのです。

新しい世紀がはじまって間もなく、アブカムにようやく目立った成果が現れました。クロマチン抗体ローディング・コントロール抗体、それに GFP 抗体でヒット商品が生まれたのです。嬉しいことに、さらに二つの幸運が重なりました。一つめは、地元の投資家たちからの資金を得られることになったことです(彼らはケンブリッジの商工会の人たちで、テクノロジービジネスの立ち上げを助けたいと思っていました)。二つめは、同じ志をもった研究者や才能ある人々がアブカムの事業に参加することになったことです(このころ参加した人たちが今日のアブカムのマネージメント・チームを形づくっています)。こうして重なった成功のお陰で、アブカムはなんとか困難な時期を乗り切ることができました。もちろん、ベンチャー・キャピタルの方が間違っているのだ、このビジネスプランの下でライフサイエンスの研究者に十分な貢献をしつつ、きちんと収益上げるということは可能だ、ということを証明するためには、ものすごく強い意志が必要でした。

ところで、たくさんの研究者のみなさんから、「羊のモリーのアイデアはどこから生まれたの?」と聞かれます。それは実はとても単純で、ちょうどそのころ、クローン羊のドリーのことが英国と世界で大ニュースだったのです。そこで私たちは分子モデルの体に抗体の足をつけて、モリーをつくりました。分子生物学のドリーは「アブカムのモリー」になったのです。

これを読んでいるあなたが、アブカムの抗体を買い、ウェブサイトを使って下さっている研究者のお一人でしたら、私たちは是非あなたのお考えをお聞きしたいと思っています。

「私たちは丁寧で親切ですか?」
「私たちの商品は期待した通りの良い結果を出していますか?」
「ウェブサイトは使いやすいですか?」
「どうやったらもっとお役に立てますか?」

どうかあなたのコメントをお知らせください。ご連絡をお待ちしています。

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