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阻害剤の選択ガイド

by Professor Stephen Taylor

ライフサイエンスの研究においては、阻害活性や促進活性などの生理活性を有する低分子化合物が数多く使用されています。これらの化合物の中には構造や生理活性作用の近いものが多く、どの化合物を使用するべきかを迷うことも少なくありません。以下に、目的の実験に適した阻害剤を選び、研究の計画を立てるためのポイントをまとめました。

参考文献を確認していますか?

阻害剤を検討する際には製品のデータシートのみならず、そのデータシートに記載されている参考文献にも目を通してください。改めて言うまでもありませんが、参考文献には阻害剤に関する特異性や生理活性作用に関する数多くの情報が含まれています。そうした中には、実験の障害となり得る作用など、製品のデータシートには記載されていない情報もあるかもしれません。

直接の阻害効果に関するデータや報告がありますか?

阻害剤を使用する場合、細胞への添加による阻害データに加え、その阻害剤が標的とする物質(ターゲット・タンパク質)に対して、直接の阻害作用を有することを示すデータを取ることをお勧めします。そのデータは、阻害剤とターゲット・タンパク質を直接混合・反応させ、その活性を計測する実験などで得ます。既に参考文献にそのようなデータが記載されている場合は、そのデータを示してください。

阻害効果が得られる最低濃度を確認しましたか?

オフターゲット効果(本来の目的ではない作用や効果)を最小限にとどめるために、阻害剤はできる限り低い濃度で用いてください。一般的な話となりますが、阻害剤を 10μM より高い濃度で細胞に添加すると、細胞内のさまざまなタンパク質に非特異的な影響が現れる可能性があります。

阻害剤の特異性を確認しましたか?

阻害剤はターゲット・タンパク質ではない別のタンパク質、オフターゲット・タンパク質にも結合し、生理活性を示す可能性があります。使用する阻害剤にオフターゲット・タンパク質が存在することが分かっている場合は、ターゲット・タンパク質と併せ、オフターゲット・タンパク質をサンプルに用いたコントロール実験も同時を行い、その実験における阻害剤の作用がターゲット特異的であることを証明してください。

異なる阻害剤を用いて近い効果が得られたデータや報告がありますか?

ある阻害剤で効果が認められた場合、その阻害剤と類似の構造を有する化合物(官能基の一部が異なるなど)でも同様の効果が認められることを示すことで、結果の信頼性が高まります。逆に、化学的な構造や性質が全く異なる阻害剤を用いた実験でも類似の効果が見られた場合は、オフターゲット効果を疑った方がいいかもしれません。

適切なネガティブ・コントロール実験を行っていますか?

必ずネガティブ・コントロール実験を行ってください。ネガティブ・コントロールとしては、阻害剤を溶解するのに用いた溶媒(DMSO など)を用いるのが一般的です。しかしながら、新規あるいは使用例の少ない阻害剤の場合には、可能であればその阻害剤に構造が近いが阻害活性はない、アナログ化合物を用いた実験を行ってください。

適切なポジティブ・コントロール試験を行っていますか?

ある阻害剤が目的とする実験系で作用がないことを示すためには必ず、その阻害剤の作用が明確に示されるポジティブ・コントロール実験を同時に行ってください。

阻害作用を止めることができますか?

オフターゲット効果である可能性を排除する方法としては、阻害剤に対する耐性遺伝子を細胞に導入し異所性発現させ、阻害作用を止める実験があります。阻害剤に対する特定の耐性遺伝子を同定することは非常に難しいことではありますが、確実かつ有用な方法です。


アブカムは、アゴニスト、アンタゴニスト、アクチベーター、インヒビター(阻害剤)といった全ての生理活性低分子化合物製品のデータシートに、できるだけ多くの情報を掲載するよう心がけています。その中には自社における試験結果のみならず、参考文献を基にした情報も含み、研究者の皆様が実験目的に沿った製品を適切に選ぶことができるよう、努めています。

なお生理活性低分子化合物も抗体などと同様、動物種や細胞の種類によって、その活性が異なる場合がありますので、その点を考慮した実験系を構築することをお勧めします。

References

  • Weiss WA et al. Recognizing and exploiting differences between RNAi and small-molecule inhibitors. Nat Chem Biol, 3(12):739-44, 2007.