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PDH の活性・制御・解析

解糖系における重要な酵素、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)の活性と制御、そしてその解析方法を解説します。


PDHの機能と構造

ピルビン酸脱水素酵素(Pyruvate dehydrogenase; PDH)はピルビン酸(Pyruvic acid)のカルボキシル基を酸化し、アセチル CoA(Acetyl coenzyme A)、NADH、および CO2 を生成する、ピルビン酸脱炭酸反応を触媒する酵素で、解糖系において非常に重要な役割を果たします。ピルビン酸は解糖系の出発物質であるグルコース 1 分子から 2 分子生じます。そしてピルビン酸から PDH によって生じたアセチル CoA は、TCA 回路に入り、その回路および電子伝達系の過程で ATP を産生します。好気的な代謝であるこの過程は、真核生物におけるエネルギー産生の大きな部分を占めるため、細胞が生きていく上で PDH は非常に重要であり、その活性の制御は厳密に行われています。


ピルビン酸脱炭酸反応を触媒するのは、正確には PDH 単独ではなく、24 分子の PDH(E1)、24 分子のジヒドロリポアミド・トランスアセチラーゼ(Dihydrolipoamide transacetylase; E2)、および 12 分子のジヒドロリポアミド・デヒドロゲナーゼ(Dihydrolipoamide dehydrogenase; E3)の 3 種類の酵素計 60 分子が形成する 9.5 MDa のピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(Pyruvate dehydrogenase complex; PDC)です。この複合体は上記酵素分子の他、E2 サブユニットと E3 サブユニットの相互作用をサポートする E2/E3 binding protein を含みます。

PDH 活性の制御

PDH の活性は、4 種類の PDH キナーゼ(PDH kinase; PDK)、PDK-1、PDK-2、PDK-3、PDK-4 による、PDH E1-アルファ・サブユニット(PDHA1)上の Ser232、Ser293、および Ser300 における可逆的リン酸化によって阻害されます。その一方リン酸化 PDH は、2 種類の PDH ホスファターゼ(PDH phosphatase; PDP)PDP1 および PDP2 によって脱リン化され、その活性が回復します。PDH の活性は、これらキナーゼおよびホスファターゼの発現によって制御されています。そしてその発現は、飢餓、低酸素、高濃度 NADH、アセチル-CoA、カルシウムといった、さまざまな要因によって変動します。

PDH 活性の解析

糖尿病や肥満などの代謝性疾患においてはしばしば、エネルギー源としてのグルコースや脂肪酸の代謝の制御が不能になっています。またがん細胞・組織は低酸素状態に陥り、好気的な代謝から嫌気的な代謝に切り替わることがあります。このような状態において PDH は重要な役割を果たすため、代謝性疾患やがんの研究において、PDH の活性の制御が注目されるようになっています。

PDH 活性の測定にはいくつかの方法があります。研究の目的や、サンプルの種類などの実験条件などに応じて、お選びください。


内因性 PDH およびリン酸化 PDH 活性の定量

PDH 活性の測定には、出発物質として放射性同位体 [14C] で標識したピルビン酸を用い、生成された [14C] CO2 を測定するという古典的な方法があります。しかしながら現在では、放射性物質を使用せず、簡単で迅速に測定が可能なアッセイ系が行われるようになっています。

アブカムには、特異抗体で PDH を捕捉した後その酵素活性を測定する、96 ウェルのマイクロプレート・フォーマットのキット製品とディップスティック・フォーマットのキット製品があります。これらキットのポイントとなる点は、内因性 PDH の活性を決定するためには、サンプル中の PDH 活性をちゃんと保持させる必要があるということです。そのためサンプル調製中に PDH がリン酸化あるいは脱リン酸化されることによってその活性が変化しないよう、インヒビターでキナーゼおよびホスファターゼ活性を阻害しておく必要があります。

  • マイクロプレート・フォーマット・キット(ab109902)
  • ディップスティック・フォーマット・キット(ab110671

アブカムには、PDH を捕捉するための抗体セットもあります。この抗体セットを用いてマイクロプレートなどに捕捉した PDH を、酵素活性を有するリコンビナント PDK でリン酸化、あるいはリコンビナント PDP で脱リン酸化し、完全にリン酸化された PDH の残存活性、完全に脱リン酸化された PDH の最大活性、そして内在性 PDH の活性それぞれを測定し、比較することができます。


全 PDH とリン酸化 PDH の定量

PDH 複合体の最も重要な調節サブユニットは PDHA1 であり、上記の通り 3 カ所、Ser232、Ser293、Ser300 のセリン残基が PDK によってリン酸化されます。それらのリン酸化の程度は、サンドイッチ ELISA を用いて定量分析することができます。

  • PDH Profiling ELISA Kit(ab110174
  • Phospho S232 PDHA1 Profiling ELISA Kit(ab115343
  • Phospho S300 PDHA1 Profiling ELISA Kit(ab115345
  • Human PDHA1 ELISA Kit(ab181415


抗体を用いた PDH サブユニットの解析

PDH 複合体の欠損は、乳酸アシドーシス(lactic acidosis)の主要な原因であり、ミトコンドリア病の一種である小児のリー病(Leigh's disease)を引き起こします。こうした欠損症の多くは、X 連鎖 PDHA1 サブユニットの突然変異に原因があります。このような疾患の解析においても、ウエスタン・ブロッティング、免疫組織染色、フローサイトメトリーといった、抗体を用いたアッセイは広く用いられています。

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