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腫瘍が引き起こす低酸素環境と免疫抑制

悪性腫瘍の腫瘍微小環境においては、多くの場合低酸素状態になります。この状態では細胞障害性T 細胞の機能低下と制御性 T 細胞の増加によって、腫瘍細胞への免疫反応が抑制されます。


腫瘍微小環境における低酸素状態

悪性腫瘍とその周辺の間質から成る腫瘍微小環境(Tumor microenvironment)においては多くの場合、過剰な細胞の増殖(Hyperplasia)が起こることと、血管からの距離が遠くなることによって、酸素の供給が不足し、低酸素状態(Hypoxia)に陥ります。そして低酸素状態となると、低酸素誘導転写因子(Hypoxia Inducible Transcription Factors; HIF)の活性化により低酸素応答が引き起こされます。

HIF の一種である HIF-1 は、正常な酸素条件下では、プロリン水酸化酵素(PHD)によってプロリン残基が水酸化修飾され、その修飾をターゲットとして E3 ユビキチン・リガーゼである von Hippel-Lindau によりポリユビキチン化を受け、最終的に 26S プロテアソームにより迅速に分解されます。一方低酸素条件下では水酸化修飾が減少し、その結果として HIF-1 濃度が上昇します。この上昇は、赤血球産生、血管新生、細胞増殖、血管緊張、血管分化、そして mTOR が関与する代謝系などに影響します。また腫瘍細胞においては、HIF の一種である HIF-1α によって発現が調節されている血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor; VEGF)や、GLUT1 などのグルコース代謝関連酵素などは、その発現レベルが上昇しています。このようなことから HIF-1α 活性と腫瘍の悪性度との間には密接な関係があると考えられ、HIF は腫瘍の悪性度を判断するための指標として用いられています。や、グルコース代謝関連酵素などは、その発現レベルが上昇しています。このようなことから HIF1 α 活性と腫瘍の悪性度との間には密接な関係があると考えられ、HIF は腫瘍の悪性度を判断するための指標として用いられています。


低酸素状態と Hellström pradox

40 年以上前、Hellström 博士の研究チームによって、がん患者の体内に、腫瘍細胞と細胞障害性 T 細胞が共存していることが見出されていました。その細胞障害性 T 細胞は腫瘍微小環境中の低酸素状態において、パーフォリン(Perforin)やグランザイム B(Granzyme B)をよる障害活性も、またインターフェロン γ(IFN γ)の刺激を介する分化も、抑制された状態にあります。そのメカニズムは次のように考えられています。

  1. 腫瘍細胞の細胞外にサイクリック AMP(cAMP)が蓄積し、T 細胞表面上のアデノシン A2A 受容体(Adenosine a2a receptor)に結合する。
  2. アラキドン酸からプロスタグランジン E2(PGE2)を合成する酵素シクロオキシゲナーゼ 2(COX2)が、上方制御を受ける。これにより増加した PGE2 が、骨髄由来のサプレッサー T 細胞表面にあるプロスタグランジン EP4 受容体と結合し、免疫抑制作用が高まる。同時に樹状細胞の成熟が抑えられ、IL-12 の産生を下方制御する。
  3. HIF-1α が、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)と L- アルギニンを分解する酵素アルギナーゼ 1(ArgI)を活性化する。これらの作用による一酸化窒素(NO)の蓄積と L- アルギニンの欠乏はいずれも、細胞障害性 T 細胞の活動を抑制する。

上記に加え、腫瘍細胞より産生された VEGF が VEGF 受容体 2(VEGFR2)に結合することによる STAT3 がリン酸化も、細胞障害性T 細胞に対する腫瘍細胞の耐性を高めます。この系には AKT パスウェイが関与していると考えられていますが、詳細はまだ解明されていません。

制御性 T 細胞の役割

制御性 T 細胞(Treg)は、腫瘍に対する免疫、腫瘍免疫の抑制を介在します。腫瘍細胞はまず、SDF1 を分泌することによって制御性 T 細胞を周囲に呼び寄せます。その SDF1 は制御性 T 細胞表面上の CXCR4 受容体に結合します。腫瘍微小環境においては、低酸素状態により HIF1 依存性の上方制御が起こり、FOXP3 の発現が抑制され、IL-10 の分泌が増加します。炎症抑制性サイトカインである IL-10 は、樹状細胞の抗原提示能を抑制し、炎症誘発性のサイトカインの合成を阻害することにより、腫瘍免疫を抑制します。